「近視」の原因と対策

<知っておきたい>「近視」の正しい知識 「近視」の原因と対策

昨今、世界的に近視が急増しています。特に日本を含む東アジアでの増加が著しく、WHO(世界保健機関)も、世界的な近視人口の増加について早急に対策を講じる必要性を訴えています。
視力低下の低年齢化も進んでおり、日本では1979年と比較すると、裸眼視力が1.0未満の小学生が約2倍に増えているとわかりました(文部科学省「学校保健統計調査」)。
私たちは近視とどのように付き合っていけばいいのでしょうか。
近視の原因や対策についての正しい知識や最新の情報を、眼科専門医が解説します。

近視とは

近視とは

私たちの目は、5m以上離れたところを見ているときがリラックスしている自然な状態です。この状態で、網膜でうまく像が作れる(=ピントが合う/焦点が合う)目を「正視(せいし)」といいます。
それに対して、リラックスした状態で網膜より手前で像を作ってしまうのが「近視」。遠くのものがぼやけて見え、近くのどこかにピントが合うようになります。

近視にもいくつか種類がありますが、ほとんどの近視は、「眼軸(がんじく)」と呼ばれる目の奥行の長さ「眼軸長(がんじくちょう)」が、正視の目よりも長くなっていることが理由です。日本人の正視の人の眼軸は24mmほどといわれています。このほか、角膜や水晶体の屈折力が強すぎることによる近視もあります。

  • 正視と近視(軸性近視)の違い

    • 正視の場合
      正視の場合
    • 近視(軸性近視)の場合
      近視(軸性近視)の場合

近視の強さ

近視の強さは、ディオプター(D)という単位で示されます。
裸眼ではっきり見える対象物までの距離(焦点距離)が短いほど数値が上がります。焦点距離が1mの近視は-1D、焦点距離が50㎝の近視は-2Dとなり、-6D以上の近視は「強度近視」と呼ばれます。

ディオプター(D) 焦点距離
-1D 1m
-2D 50cm
-3D 33cm

これまで「大人になれば近視の進行は止まる」といわれていましたが、近年、近視が強い人は大人になってからも眼軸が伸び、近視が進みやすいことがわかってきました。また、近視が強くなると、失明につながるような眼疾患のリスクが高くなることも報告されています。

近視の原因

近視の原因

近視というのは、目の成長過程で起こります。
生まれたばかりの赤ちゃんは眼球が小さく眼軸(眼球の奥行)の長さは17mmほどで、ほとんどが軽い「遠視」の状態。ぼんやりとしか見えていません。そこから、身体や脳の成長とともに眼球や角膜・水晶体が成長し、1.0の視力に近づくのが5歳前後。眼軸の長さは、一般的に13歳までに24mmほどになり、成長期が過ぎたころには眼軸長の成長も止まるといわれています。ところが、何らかの影響で眼軸が伸びすぎてしまうと近視になるのです。

目の仕組み
  • 遠視(赤ちゃんの目)
    遠視(赤ちゃんの目)

    眼軸長が短いため、網膜の後ろでピントが合ってしまう。
    赤ちゃんの目はこの「遠視の状態」

  • 正視
    正視

    眼軸長が標準(24mm程度)。目がリラックスした状態で、網膜にピタリとピントが合う。

  • 近視
    近視

    眼軸長が長すぎるため、リラックスした自然な状態で網膜の手前にピントが合う状態。近くは見えるが、遠くがぼやけて見えにくい。

近視の発症・進行には、遺伝と生活環境の両方が影響していると考えられています。また、次のような子どもは、近視のリスクが高いといわれています。

こんな子どもは近視リスクが高い

  • 親が近視
  • 外遊びをあまりしない
  • 寝る時間が遅い
  • 睡眠時間が短い
  • 30cm以内の距離で本を読む
  • スマホ、ビデオゲームを1時間以上続けてする
  • 学校の休み時間は教室にいることが多い

なお、まれに幼少期(3歳くらい)から強い近視が見られるケースもあります。他の疾患を伴うこともあるため、早期発見し、適切な処置を行う必要があります。

近視によって引き起こされる病気

近視によって引き起こされる病気

早く近視が始まった人ほど近視が強くなるといわれています。
さらに、強い近視になると、網膜や視神経、網膜の外側の脈絡膜などが引き伸ばされて薄くなり、神経や細胞に負担がかかってさまざまな障害を引き起こしやすくなります。

近視が進むとリスクが上がる、失明につながりやすい病気

  • 視神経障害
  • 緑内障
  • 近視性黄斑症
  • 網膜剥離
  • 網膜分離
  • 網脈絡膜委縮症

強い近視の人は、定期的に眼科を受診することが大切です。

近視の対策と、目の健康を維持するために意識したいこと

近視の対策

近視の対策

眼鏡やコンタクトレンズを使用して視力を補正するのが一般的です。
見えづらさを放置していると、仕事の効率が落ちたり自動車を運転中などに安全が損なわれたりするなど、生活に支障をきたしかねません。子どもの場合は、親の表情を読み取れないことから親の顔を見ても反応しなくなったり、周囲のものごとに関心を抱きづらくなったりするなど、精神的な発達に影響が及ぶ例も見られます。また、黒板の文字が読めず授業についていけなくなることもあります。両目で0.7の視力を下回ったら眼鏡などで視力を補正することが勧められます。
一度眼鏡やコンタクトレンズを作っても、目の状態は時間の経過とともに変化します。自分の目の状態を正しく把握するためにも、定期的に眼科を受診しましょう。

「近視は治せる」と思っている人も多いのですが、残念ながらこれは間違い。すでに伸びてしまった眼軸を短くすることはできません。
しかし、軽度の近視は「現代の生活に合っている目」とも捉えられます。近くにピントが合うので本やパソコンの文字が読みやすく、仕事や勉強に集中しやすい目といえるのです。
「近視を治さなくてはいけない」と考えず、必要に応じて自分の生活と近視の状態にあわせた補正をしながら、近視と付き合っていくといいのではないでしょうか。

目の健康を維持するために意識したいこと

近視に限った話しではありませんが、目の健康を維持するためには、目の疲労対策が大切です。日常生活では次のようなことに気をつけてみてください。

  • 1日2時間、週14時間は屋外で過ごす
  • テレビを見る、本を読む、スマートフォンを使用する際は部屋を明るくする(部屋の明かりに加えてデスクライトも使用する)
  • デスクワークをするときは、正しい姿勢で座る
  • デスクワークをするときは、正しい姿勢で座れるように椅子や机の高さを調整する
  • 寝転んで本を読んだりスマートフォンを使ったりしない(片方の目だけに負担がかかるため)
  • 近くを見ることが続いたら休憩して遠くを見たり、外を見たりする
  • 規則正しい睡眠、規則正しい生活リズムを習慣にする
  • 睡眠時間を十分とる
  • 「クロセチン」などの抗酸化成分を摂取する
※クロセチンは、にんじんに含まれるβ-カロテンやトマトのリコピンの仲間のカロテノイドの一種で、抗酸化作用のある物質として注目されています。
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梶田 雅義先生
監修:梶田眼科 院長 梶田雅義先生
1983年、福島県立医科大学卒業後、カリフォルニア大学バークレー校研究員などを経て、2003年、梶田眼科開業。2018年から2021年、東京医科歯科大学医学部臨床教授。2022年、日本コンタクトレンズ学会名誉会員受賞、2023年、日本眼光学学会名誉会員受賞。現在も日本眼鏡学会評議員、日医光JIS原案作成委員を務める。

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