「遠視」の原因・症状・対処法

<知っておきたい>「遠視」の正しい知識 「遠視」の原因・症状・対処法

近視や乱視に比べ、遠視はあまり身近ではないと思う人は多いかもしれません。近視は遠くが見えない状態で、遠視は遠くが見えることだから、「遠視=目が良いこと」と誤解されがちなのも遠視の特徴です。しかし、遠視は疲れ目や頭痛の原因になりやすく、子どもの場合は放っておくと弱視や斜視の原因になってしまう可能性もゼロではありません。遠視の正しい情報と原因・症状・対処法について解説します。

遠視の原因とは

遠視の原因とは

5メートル以上離れたところを見ているとき、私たちの目はリラックスした状態になります。このリラックスした状態で、網膜に正しくピントが合い、クリアな画像が得られる目が「正視」です。
一方、目がリラックスした状態のとき「網膜よりも奥でピントが合う目」のことを「遠視」といいます。遠視は“遠くがよく見える目”だと思われがちですが、それは誤解。「遠視」は、自然な状態では網膜にピントが合わず、クリアにものを見るためには常に水晶体の厚みを調節する必要があります。
近くを見るときは遠くを見るよりもさらに強く水晶体を調節しなければならないので、デスクワークなどで日常的に近くを見る機会が多い人は、とくに眼精疲労を起こしやすくなります。遠視はとても疲れる目でもあるのです。軽度の遠視に気づかないままで支障なく過ごしていて、眼精疲労などで眼科を受診してはじめて、遠視に気づくケースもあります。

  • 正視の場合
    正視の場合
  • 遠視の場合
    遠視の場合

    ものを見るとき、水晶体の厚みを調整して、後ろにズレているピントを網膜に合わせる

遠視の種類

遠視には、眼球の奥行(眼軸)が正視よりも短いことが原因で起こる「軸性遠視」と、角膜や水晶体の屈折力が弱いことで起こる「屈折性遠視」の2種類があり、多くの場合、両方の原因が混在しています。

  • 軸性遠視
    軸性遠視

    眼球の奥行(眼軸)が正規の眼球よりも短いため、網膜より後ろでピントが合う

  • 屈折性遠視
    屈折性遠視

    角膜・水晶体の屈折力(光を曲げる力)が弱く、網膜より後ろでピントが合う

老眼と遠視の違い

遠視が眼軸の短さや角膜・水晶体の屈折力の弱さなどから、網膜より奥でピントが合ってしまうのに対して、老眼は加齢によって水晶体が硬くなり、ピントが合わせられなくなっている状態。

老眼と遠視の原因は別ですが、いずれも疲れやすい目といえます。見え方に不満がなくても放っておかずに、医師に相談のうえ、必要に応じて眼鏡やコンタクトレンズで補正するなど対処することが大切です。

遠視によって引き起こされる主な症状

遠視によって引き起こされる主な症状

遠視は遠くを見るときも近くを見るときも水晶体の厚みを調節する必要があるので、眼精疲労がおきやすくなります。
眼精疲労の主な症状は以下の通りです。

症状
  • 目の疲れ
  • 目の奥の痛み
  • 肩こり
  • 頭痛
  • 首すじが張る
  • 吐き気
  • その他、自律神経失調症の症状

これらの症状のため、細かい作業が長続きしない、集中力が持続しないという状態にもなりがちです。

遠視の対処法(治療法)

遠視の対処法(治療法)

遠視を根本的に治す治療法はありません。眼科で検査を行い、必要に応じて視力に合った眼鏡やコンタクトレンズで視力を補正するのが基本的な対処法となります。例えば手元を見ることの多い仕事をしている場合は、眼鏡やコンタクトレンズを使用することで、眼精疲労の症状を軽減させられます。
一方、もし対処をしないと、肩こりや頭痛、また読書や手元の作業に集中しにくいことから仕事や勉強の効率低下などを招くリスクがあります。さらには、自律神経失調症を招く恐れもあるようです。

子どもの遠視

子どもの遠視

一般的に赤ちゃんは軽い「遠視」の状態で生まれます。多くの場合は、乳幼児期から13歳くらいまでの間に眼球や角膜・水晶体などが成長し“見る機能”が完成していく過程で解消されるのですが、もともとの遠視が強いなどの場合、遠視のまま大人になるケースもあります。

遠視の子どもの多くは、生まれたときから遠視なので、「遠視の見え方が普通」だと感じています。また、水晶体の調節力が強いため、無意識のうちにピントを調節して日常生活に支障がない程度には見えていることも多いのです。そのため子どもが自分から「見えにくい」と訴えることはあまりなく、学校の視力検査などで見逃されることもあります。
けれども、遠視では常にピントを調節していますので、目が疲れやすい状態です。
手元の細かい作業が長続きしない、集中力が持続しない、飽きっぽいなどの状態は“子どもの性格”だと思われがちですが、実は遠視で常にピントを調節して目が疲れやすくなっているために起きているケースもあるのです。
さらに、子どもの遠視は弱視や斜視につながる可能性があります。

解説
  • 弱視

    弱視というのは、視力の発達が障害されて起きた低視力のこと。眼鏡をかけても視力が十分でない状態を指します。
    生まれてすぐの子どもの視界はぼんやりとしていて、両目で絶えずものを見ることによってだんだんと立体感や遠近感がわかるようになります。ところが、“見る機能”が発達する時期に、目の病気やケガをする、目の成長によくない環境が続くなど、両目できちんとものを見ることができにくい状態が続くと、視力の発達が障害されて弱視になってしまうのです。
    また、強い遠視も弱視の原因となります。一定以上の強さの遠視の場合、ピントを合わせようとしても調節力が足りず、いつもピンボケの像しか見えません。この状態では目の発達に必要な刺激が不足し、“見る機能”が育ちにくくなるのです。
    子どもの弱視は、弱視訓練で回復を図ります。眼鏡で近くにピントが合う状態をつくり、近くを見る経験をたくさんさせるという方法です。
    視力の発達を抑えられる期間が長いほど回復は困難になるので、早期発見と早期治療が大切です。

  • 斜視

    ものを見るときに片方の目が対象物の方向を向いているのに対し、もう一方が対象物とは違う方向を向いている状態を「斜視」といいます。斜視のなかでも片方の黒目が内側に寄るのが「内斜視」です。
    遠視では遠くを見るときも近くを見るときもピントを合わせるために目の調節力を働かせなければならず、このとき両目の視線を少し内側に寄せることが、内斜視の原因となることがあります。
    内斜視の状態では立体感や遠近感を把握しづらかったり、ものが2つに見えたりすることがあり、弱視の原因となることがあります。見た目が気になるという点も問題になりやすいです。治療を行うことで改善するケースもあります。
    子どもの場合、矯正用の眼鏡をかけて両眼視(対象物を見て、立体感、遠近感などをつかむこと)の訓練をします。眼鏡を使っても両眼視ができないときは、手術を検討します。
    成長が止まってからでは両眼視の確立は難しく、できるだけ早期に、可能であれば幼児期に治療を開始することが重要です。

このほか、子どもの遠視を放置していると、いざ眼鏡で補正しようとしても慣れるまでに時間がかかるという点も問題です。遠視が疑わしいときは眼科を受診することが勧められます。

遠視でみられるお悩み(Q&A)

遠視でみられるお悩み(Q&A)

  • 加齢によって、遠視になることはありますか?

    加齢に伴って遠視化が進むことは、多くの人に見られます。加齢によって目の組織が張りを失い縮むからではないかと考えられています。
    なお、加齢によってピント調節機能が弱まることで、遠視のように近くが見えづらくなることもあります。いわゆる老眼です。

  • 遠視のセルフチェック法はありますか?

    裸眼で問題なく見えているにもかかわらず、目が疲れる、目の奥が痛い、肩こりや頭痛・吐き気を感じやすいという症状があれば、遠視の可能性があります。また、老眼が始まる平均年齢の40代半ばより前に、手元が見えづらくなった、目が疲れるという症状が出た人は、遠視がひそんでいる可能性もあります。
    遠視の場合、視力検査の数値に変化が出ないことが多くあります。しかし、目の疲れを放置するのはよくありません。また40歳を過ぎると、ほかの目の病気を発症するリスクが高まります。「視力がいいから大丈夫だ」と考えず、定期的に眼科を受診することが大切です。

  • 子どもが遠視かどうか見分ける方法はありますか?

    一定以上の遠視の場合、多くは視力測定によって、十分な視力がないとわかります。
    視力がある程度良い場合は、視力測定では見過ごされてしまうこともあります。ただし、常にピント調整を行っているため、次のような様子が表れやすい傾向にあります。

    • お絵描きや工作など、細かい作業が長続きしない
    • 集中力が続かない
    • 落ち着きがない

    このような様子がある場合は、早めに眼科で目の検査を受けてください。2~3歳くらいで適切な眼鏡をかけ始めれば、行動がスッと落ち着く子どもも少なくありません。

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梶田 雅義先生
監修:梶田眼科 院長 梶田雅義先生
1983年、福島県立医科大学卒業後、カリフォルニア大学バークレー校研究員などを経て、2003年、梶田眼科開業。2018年から2021年、東京医科歯科大学医学部臨床教授。2022年、日本コンタクトレンズ学会名誉会員受賞、2023年、日本眼光学学会名誉会員受賞。現在も日本眼鏡学会評議員、日医光JIS原案作成委員を務める。

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