<知っておきたい>「加齢黄斑変性」の正しい知識 「加齢黄斑変性」の原因・症状・対処法
目の網膜の中心にある黄斑(おうはん)に異常が起こる加齢黄斑変性。
見ようとしているところがよく見えない、歪んで見える―。そんな症状が出る加齢黄斑変性は、目の老化によって起こる病気の代表格です。放置すると失明に至ってしまうこともありますが、近年は治療方法が進歩し、視力の維持や回復も目指せるようになっています。
もし、似たような症状が現れたら、まずはご一読を。
眼科医監修のもと、加齢黄斑変性について詳しく解説します。
最後には、自己チェック法も掲載していますので、気になる人は試してみてください。
加齢黄斑変性とは
加齢黄斑変性は、目の「網膜」という、カメラのフイルムに当たる部分の中心に、加齢に伴って異常が起こることで、視力が低下してしまう病気です。
欧米における成人の失明原因の第1位が加齢黄斑変性です。以前は日本人には比較的少ないといわれていましたが、近年は高齢化と生活の欧米化により日本国内でも増加しています。九州の久山町での調査によると、1998年では50歳以上の有病率は0.87%でしたが、9年後は1.3%に上りました。現在は日本人の失明原因の4位で、女性より男性に約3倍多くみられます。
黄斑とは?
病名にある「黄斑」とは、目の中で光の集まる「網膜」の中心部分のことです。網膜には「視細胞」という光や色をとらえる細胞が並んでいます。網膜の中でも特に黄斑部は、ものの色や細かい形を識別する細胞が集まっている大切な場所です。黄斑部は直径数㎜で、中央に「中心窩」という小さなくぼみがあります。目に入って来た光は中心窩に集まります。
黄斑部が網膜の中心であり、黄斑部が正常に働くことで、細かいものをはっきり見ることができるのです。
2種類の加齢黄斑変性
加齢黄斑変性には、「滲出型」と「萎縮型」の2つの種類があります。
それぞれを理解するために、まずは網膜を拡大してみましょう。網膜の上層には「網膜色素上皮」があり、その上には「脈絡膜」という、血管がたくさん走っている組織があります。脈絡膜が網膜に栄養を送っています。
長期間にわたり光にさらされるなど、何らかの原因で黄斑部の細胞の働きが低下すると、脈絡膜から水分が漏れ出して網膜色素上皮が剥がれたり、網膜色素上皮や脈絡膜が硬く縮んだりして、視力が低下することがあります。
網膜色素上皮などが縮むことで見え方に異常が起こっている状態を「萎縮型加齢黄斑変性」と呼びます。
黄斑部の変性が続くと、「血管内皮増殖因子(VEGF)」などの物質が働いて、脈絡膜から視細胞に栄養を届けるため新生血管ができるといわれています。新生血管はとてももろいため、破れて出血したり、血液の液体成分が漏れ出たり、また新生血管が伸長して網膜色素上皮の上や下に侵入したりすることで、ダメージが蓄積されていきます。さまざまな要因により、網膜がダメージを受けていくと視力が低下をきたします。このように新生血管ができることで視力が低下した状態を、「滲出性加齢黄斑変性」と呼びます。日本人に多いタイプです。
加齢黄斑変性の主な症状
黄斑部は「ものを見る」という網膜の中心として働く重要な部分なので、異常が起こると見え方が変わります。
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歪んで見える
多くの場合、初期にはものが歪んで見えるという特徴的な症状が起こります(変視症)。歪んで見えるのは黄斑部という網膜の中央が歪んでいるためで、視野の真ん中、つまり見ようとしているところは歪んでいるものの、それ以外の周辺部分は正しく見えます。
このほか、中心が見づらい、視界の真ん中がかすむなどの症状も見られます。
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中心が黒く見える
症状が進行すると、中心が黒く、見えなくなります(中心暗点)。色の識別ができなくなるという症状が現れることもあります。
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視力低下
さらに症状が進むと、視力が低下します。そのまま治療をしないでいると、視力が0.1を下回ってしまうこともあるといわれます。人によっては急に視力が低下することもあります。ただしほとんどの場合、痛みはありません。また一方の目に視力低下が起こっても、もう一方の目が見えているために症状に気付かないこともあります。滲出型のほうが、進行が速いケースが多く見られます。長く症状を放置すると、視力を失いかねません。
加齢黄斑変性の主な原因
加齢黄斑変性は、黄斑部の細胞がダメージを受けることで起こります。ダメージの主な要因は加齢だと考えられています。
加齢のほかにも、危険因子として以下が上げられています。
- 喫煙
- 食生活の欧米化
- 緑黄色野菜不足の生活
- 肥満、高血圧、脂質異常症
- 紫外線
- 遺伝
加齢黄斑変性の検査法
眼科では次の検査によって加齢黄斑変性と診断します。
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問診
いつからどんな症状があるのか、また喫煙習慣や目以外の病気などを尋ねます。
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視力検査
加齢黄斑変性の症状に視力低下があるので、視力の程度を調べます。
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アムスラー検査
片目ずつ格子状の図を見て、中心が歪んだり見えづらかったり、黒くなったりしていないか調べます。加齢黄斑変性の診断に欠かせない検査です。
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眼底検査
点眼薬で瞳孔を開き、網膜の状態を詳しく観察する検査です。黄斑部の出血や新生血管、萎縮も確認します。
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蛍光眼底造影検査
蛍光色素を腕の静脈に注射して新生血管の様子を撮影し、詳しく調べる検査です。動画撮影を行うこともあります。新生血管の位置や形、活動性を調べることができます。
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光干渉断層計(OCTスキャン)
黄斑部の断面を調べる検査です。現在は新しい機械が登場し、網膜の腫れ具合や脈絡膜新生血管の様子が立体的に分かるようになっています。短時間で済み造影剤も使わない体への負担が小さい検査なので、頻繁に行えます。診断だけでなく、経過観察のときにも用いられることがあります。
加齢黄斑変性の治療法
かつては決め手となる治療法がなかったのですが、医療が進歩し、現在は新たな治療法が登場しており、視力を維持させることや、改善させることも可能となりました。
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薬物療法
脈絡膜新生血管を成長させる「血管内皮増殖因子(VEGF)」の働きを抑えることで、新生血管を消していく新しい治療です。
具体的には、「VEGF阻害薬」を眼球の中に注射するという方法です。麻酔をしてから注射をするので痛みはほとんどありません。目と目の周囲を広く消毒し、清潔な状態で行います。
外来で治療できますが、患者さんは注射の3日前から抗菌薬を点眼しておく必要があります。また注射の後の2~3日も点眼薬をさします。
最初は4~6週ごとに2~3回注射します。その後、定期的に観察し、脈絡膜新生血管の再発が見られたら再度注射します。光線力学的療法と組み合わせることもあります。
注射を中断すると再発してしまうこともあるので、眼科医の指示に従い根気よく続けることが大切です。
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光線力学的療法
多くの場合、薬物療法と組み合わせて行われます。
まず新生血管に集まる性質の薬剤を点滴し、薬剤が集まった部分に弱いレーザーを当てて、新生血管を消していく治療です。
点滴する薬剤は光に反応するので、治療後48時間以内に強い光に当たると光過敏症などの合併症が起こることがあり、注意が必要です。
治療を受けた後も3か月ごとに病状を確認し、状況に応じて再度、治療を行います。
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レーザー光凝固
強いレーザー光線で新生血管を焼く治療法です。新生血管が中心窩から離れた場所にできているときに行います。異常が中心窩に及ばないよう、予防することができます。
加齢黄斑変性の予防法
加齢黄斑変性を早く見つけるには、定期的に眼科の検診を受けることが欠かせません。年に1回は眼科に行き、眼底検査を含む検診を受けましょう。
生活面での工夫としては、下記があげられます。
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禁煙
加齢黄斑変性の予防に、禁煙は必須です。タバコを吸う人はそうでない人に比べて加齢黄斑変性になるリスクが高いことが明らかになっています。
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サプリメント摂取
活性酸素の悪影響から網膜の細胞を守る働きのあるビタミンCやビタミンEなどのビタミン類、亜鉛などをサプリメントで服用すると、加齢黄斑変性の発症や進行のリスクが低くなることが分かっています。
また、黄斑部を守るには、黄斑部の色素を増やすことも大事だといわれます。ルテインやゼアキサンチンという成分をサプリメントでとるのも良いでしょう。
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緑黄色野菜をとる
緑黄色野菜には黄斑部の色素に含まれるルテインやゼアキサンチンが多く含まれます。ビタミンC、ビタミンEや亜鉛を、食事でとることも大切です。ビタミン類は、ホウレン草やニンジン、かぼちゃなど、また、ルテインはホウレン草やブロッコリーなどに多く含まれています。
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紫外線を防ぐ
紫外線は網膜にダメージを与えます。UVカット機能のあるサングラスの着用も良いでしょう。黒色が濃いと瞳は大きくなるため、色は薄めの物がおすすめです。
加齢黄斑変性の自己チェック法
加齢黄斑変性を発症しているかどうかは、自分でもチェックできます。(大きな画面でご確認ください。)
※眼鏡やコンタクトレンズを使用している人は、装着した状態で検査してください。
- 図を目から約30㎝離し、片目で表の中央の点を見つめます。
もう一方の目は手で覆ってください。
- 集中して中央の黒い点を見つめ続けると、まわりの線がぼやけてきます。
- 中央部が歪む、線が途切れるというときは、加齢黄斑変性の心配があります。眼科を受診しましょう。
※特に異常がなくても、年に一度は眼科で検査を受けましょう。
加齢黄斑変性で
よくみられるお悩み(Q&A)
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加齢黄斑変性に気付かずに放っておくと、失明してしまうのでしょうか?
必ず失明に至るわけではありません。しかし日本の失明原因の第4位であることからも分かるように、極度に視力が低下する可能性があることは確かです。
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加齢黄斑変性は難病指定されている病気でしょうか。治りますか?
指定難病ではありません。病気が進行して視細胞が壊れてしまうと回復が難しくなりますが、早期に治療を開始すれば回復する場合もあります。
視力が大きく損なわれる前に治療することが大切です。
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iPS細胞を使った加齢黄斑変性の治療はできるのでしょうか。
現在、iPS細胞で作った網膜色素上皮の細胞を黄斑に移植する研究などが進められています。
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光線力学的療法後の注意点を教えてください。
治療後48時間以内に目や皮膚に直射日光や強い室内灯があたると、やけどのようになってしまうことがあります。光を浴びないことがとても重要です。どうしても外出しなくてはいけないときは、濃いサングラスをして衣服で肌を隠すことが大事です。日焼け止めは意味がありません。48時間を過ぎても、5日目までは、できるだけ光を浴びないようにしましょう。
監修:梶田眼科 院長 梶田雅義先生
1983年、福島県立医科大学卒業後、カリフォルニア大学バークレー校研究員などを経て、2003年、梶田眼科開業。2018年から2021年、東京医科歯科大学医学部臨床教授。2022年、日本コンタクトレンズ学会名誉会員受賞、2023年、日本眼光学学会名誉会員受賞。現在も日本眼鏡学会評議員、日医光JIS原案作成委員を務める。