<知っておきたい>「アトピー性皮膚炎」の正しい知識 (1)「アトピー性皮膚炎」の症状・部位別症状を解説
激しいかゆみを伴う「アトピー性皮膚炎」。かきむしる刺激によって肌のバリア機能が低下し、皮膚炎の症状が悪化します。多くは生後2~3カ月から始まって小児~学童期に悪化し、大人になると軽快しますが、なかには大人になってはじめて発症する人もみられます。アトピー性皮膚炎の一般的な症状や部位別の症状について、皮膚科医監修のもと解説します。
アトピー性皮膚炎の主な原因
アトピー性皮膚炎は、なぜ発症するのでしょうか。まずはアトピー性皮膚炎の定義について確認しながら、その原因を探ります。
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎の「アトピー」とは、「不思議な病気」を意味する言葉です。強いかゆみのある湿疹が出て、悪くなったりよくなったりの状態を繰り返します。家族にアトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎を持つ人がいたり、もともと肌のバリア機能が弱かったりすると、アトピー性皮膚炎になりやすいことがわかっています。
厚生労働省が実施した2014年の「患者調査」によると、アトピー性皮膚炎の総患者数は45万6000人と推計されています。発症すると、かゆみを伴う赤みやブツブツした発疹を生じます。また、アトピー性皮膚炎の特徴として肌全体がカサついています。このような症状は、肌をかきむしることで悪化します。
発症する主な原因
なぜアトピー性皮膚炎が発症するのか、そのメカニズムについてはすべてが明らかになっているわけではありません。アレルギー体質のほか、ドライスキン(乾燥肌)で皮膚のバリア機能が低下するなど、遺伝や生まれながらの体質も原因のひとつとされています。
生まれつきではなく、生まれた後の要因が原因になることを「後天的」といいますが、アトピー性皮膚炎の後天的な悪化因子として次のようなものがあげられます。
アトピー性皮膚炎の状態に、さらにこれらハウスダストやダニ抗原といった要因のほか、汗などの刺激が加わることで、アトピー性皮膚炎が悪化すると考えられています。衣服では、たとえば機能性インナーが直接触れる刺激などが皮膚炎を悪化させることもあります。
アトピー性皮膚炎の主な症状
アトピー性皮膚炎になると、どのような症状が現れるのでしょうか。段階的な症状や発症しやすい部位についてくわしく見ていきます。
段階的な症状
子どもにおいては、初期に皮膚の乾燥がよくみられます。アトピックドライスキンでは、関節の内側を中心に赤みやブツブツなどの症状がみられます。
肌は乾燥してザラザラした触感になり、鳥肌のようになります。かゆみがある肌をかきむしることで、皮膚がゴワゴワして分厚くなっていくこともあります。
大人の場合も子どもと同じような症状が現れ、顔の症状は治りにくくなります。また、悪化によって全身が赤くなる紅皮症の状態になり、重症化することもあります。
発症しやすい主な部位
とくに発症しやすいのは、ひじやひざの関節の内側、首など、擦れたり衣服の刺激を受けたりしやすい部位です。顔にみられる場合も少なくありません。
最近増えている!?成人(大人)のアトピー性皮膚炎
前述したように、大人にもアトピー性皮膚炎はみられます。
子どもの頃に発症したアトピー性皮膚炎がそのまま続いている場合もありますが、一度治ったのにまた再発する人や、大人になってはじめて発症する人もいます。皮膚が厚くなる状態(苔癬化)やブツブツが目立つ状態(痒疹)がみられ、かゆみが非常に強くなるため、かき壊して悪化するケースも多くなります。
アトピー性皮膚炎が悪化(重症化)した場合の症状
アトピー性皮膚炎は、症状が悪化すると治りにくくなります。悪化したときの具体的な症状と、悪化を招く原因について見ていきましょう。
悪化の症状
子どもの頃のアトピー性皮膚炎は、時間の経過とともに自然に治ることが多いのですが、ときに思春期や大人になっても症状が続く場合があります。悪化することで症状が長引くため、早めに対処することが大切です。
季節によってよくなったり悪くなったりを繰り返しますが、とくに空気が乾燥する冬や春先のほか、夏は汗で症状が悪化しやすくなります。
子どもにおいても大人においても、肌をかきむしることで皮膚炎の症状が悪化し、ますますかゆくなるという悪循環を呈しやすくなります。
悪化させてしまう主な要因
アレルギー反応自体によって、アトピー性皮膚炎が悪化するケースが多くみられます。このほか、皮膚への刺激もあげられます。激しくかくことで肌が傷つくだけでなく、バリア機能がさらに低下して刺激を受けやすくなってしまいます。そこへ、アレルギー因子や乾燥、汗、寝不足などの後天的な悪化要因が重なることで炎症が起こり、ますます症状が悪化するという悪循環を招くことがあります。
アトピー性皮膚炎に似た皮膚疾患
湿疹やかゆみなど、アトピー性皮膚炎と似た症状を持つ皮膚疾患もあります。主なものを見ていきましょう。
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接触皮膚炎
外から肌に触れた物質によって引き起こされる皮膚炎。刺激性皮膚炎とアレルギー性皮膚炎の2つに分けられます。
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脂漏性皮膚炎
顔や頭、わき、陰部など、皮脂の分泌が活発な場所に現れる病気。カサついて角質が目立つ肌に、赤みのある発疹がみられます。とくに、顔のアトピー性皮膚炎との見分けが難しいことがあります。
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単純性痒疹
強いかゆみを伴うブツブツした盛り上がりが、手や足などに現れます。虫さされをかき壊すことで生じることもあります。
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疥癬(かいせん)
ヒトに寄生するヒゼンダニが起こす感染症。強いかゆみを伴います。ときに、皮膚科専門医でもアトピー性皮膚炎との鑑別診断が難しいこともあります。
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あせも
汗を多くかくことで現れ、かゆみがあります。ひざやひじの内側など、汗がたまりやすい場所によくみられます。
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皮脂欠乏性湿疹
水分保持力が低下して乾皮症という乾いた肌になり、バリア機能が低下しているところに外部の刺激が加わって、二次的に湿疹が現れた状態をいいます。
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手湿疹
手のひらや手の甲、手の指に現れる湿疹や皮膚炎を指します。
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乾癬(かんせん)
炎症と角化(角質化)が主体の疾患。赤くなった肌の上に、銀白色の角質が層状に重なっている状態の肌がみられます。
これらの皮膚疾患は、アトピー性皮膚炎に合併して発症することもあります。
併発しやすい病気と、重要な合併症
アトピー性皮膚炎では、アレルギー体質であることや皮膚のバリア機能の破壊がみられることにより、併発しやすいとされる病気や合併症がいくつかあります。それぞれ見ていきましょう。
併発しやすい病気
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気管支喘息
発作的に咳や痰が出たり、ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音を伴って息苦しくなったりする疾患。気道に慢性的な炎症が続き、さまざまな刺激に対して気道が敏感になることが原因で起こるといわれています。小児の場合、吸入性アレルゲン(ダニ、ペット、カビなど)をはじめとした、アレルゲンに対するアトピー反応が原因となっているケースが多くみられます。
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アレルギー性鼻炎
くしゃみ、鼻みず(水様性)、鼻づまりといった症状が出る疾患。ダニやハウスダストなどが原因となって起こる通年性アレルギー性鼻炎と、スギ、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサ、シラカバなどが原因となって起こる季節性アレルギー性鼻炎に分類されます。
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アレルギー性結膜炎
白眼の部分(結膜)が炎症して赤く充血する、かゆみを感じる、目やに(眼脂)が出る、涙が出るなどの自覚症状がある場合、アレルギー性結膜疾患と診断されます。なかでも、顔にアトピー性皮膚炎がある人に起こる慢性的なアレルギー性結膜疾患を、アトピー性角結膜炎と呼ぶこともあります。
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春季カタル
春から夏にみられる重症のアレルギー性結膜炎のこと。点状表層角膜症、角膜びらん、潰瘍、角膜の混濁、血管侵入などの重い角膜障害を合併することがあります。まぶたの皮膚炎がなかなか治らないこともあるようです。
重要な合併症
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白内障
眼球の前部にある水晶体が白くにごる病気。年齢を重ねることで発症しやすくなるため、老化現象のひとつとも考えられています。
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網膜剥離
目のなかで最も重要な網膜が、なんらかの理由ではがれてしまう病気。黒い点や虫のようなものが見えたり、視野が欠けたり、視力が落ちたりするなどさまざまな症状が現れます。
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カポジー水痘様発疹症
アトピー性皮膚炎のバリア機能が低下した肌に、ヘルペスウイルスが感染して起こります。ときに高い熱が出て、入院が必要なこともあります。
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伝染性軟属腫
いわゆる「水いぼ」で、伝染性軟属腫ウイルスによる皮膚感染症です。子どもによくみられます。
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伝染性膿痂疹
細菌に感染して起こる病気。いわゆる「とびひ」です。子どもに多く発症し、夏場によくみられます。抗生物質の内服、外用が必要です。
監修:尾見 徳弥 先生
日本医科大学大学院卒業 Aarhus大学客員研究教授、日本医科大学客員教授。日本皮膚科学会美容皮膚科・レーザー指導専門医 日本皮膚科学会認定専門医 日本アレルギー学会認定専門医