【ドクターズインタビュー】アトピー性皮膚炎―治療現場の今について

【ドクターズインタビュー】尾見徳弥先生インタビュー「アトピー性皮膚炎―治療現場の今について」

かゆみを伴う赤みや湿疹が特徴のアトピー性皮膚炎。悪くなったりよくなったりを繰り返すため、セルフケアや治療の進め方に悩む患者さんは少なくありません。そこで、セルフケアでの注意点を踏まえながら、アトピー性皮膚炎の治療現場の今について、クイーンズスクエアメディカルセンター皮膚科・アレルギー科の尾見徳弥先生にお話をうかがいました。

治療とあわせて行うセルフケア…気を付けたいポイントは?

治療とあわせて行うセルフケア…気を付けたいポイントは?

日常のスキンケアでは、やはり保湿が大切なのでしょうか?

乾燥している人は、保湿するといいでしょう。ただし、赤みやかゆみなど炎症がある場合は、保湿だけでは治せないので、ステロイド外用薬(塗り薬)を使うのが基本です。保湿剤とステロイド外用薬を症状によって塗り分けるのが理想ですが、両方を使う場合は、乾燥している部分全体に保湿剤を塗ってから、炎症部位にのみステロイド外用薬を塗るようにしましょう。

また、体を洗うときにも注意が必要です。アルカリ性の洗浄剤は肌のバリア機能にダメージを与えて、さらに乾燥を悪化させてしまいますので、弱酸性で肌にやさしい洗浄剤を選びましょう。そして、ナイロンタオルやスポンジでゴシゴシ洗うのは絶対に避け、よく泡立ててから、手で肌をやさしくなでるように洗ってください。泡立てるのが面倒な人には、泡で出てくるタイプのボディソープが便利だと思います。

保湿剤はどのようなものがおすすめですか?

皮膚科では、ワセリンや尿素製剤、ヘパリン類似物質配合製剤などがよく使われています。それぞれ特徴が異なりますので、自分に合ったものをとりいれましょう。

  • ワセリン

    肌の上に油分の膜をつくることで、水分蒸発を防いで保湿します。ワセリン単体を使うとベタつくことがありますが、最近では特別な製造方法でベタつきをおさえたワセリン製剤もあるようです。

  • 尿素製剤

    尿素には保湿して肌をやわらかくする効果がありますが、バリア機能が低下している肌ではしみることもあります。

  • ヘパリン類似物質配合製剤

    ヘパリン類似物質は非常に優れた保湿成分で、角質層のバリア機能を改善する効果があります。血行を促進する作用もあり、まれにかゆみを感じる患者さんもおられます。

また、注意していただきたいのはオイルです。バリア機能が破たんしていると、かぶれることがあるようです。オリーブオイルを使って逆に悪化したりする方もおられます。
それから、いろんなアイテムを重ねて塗ると、そのなかに肌に合わない成分が含まれる確率が高まりますので、あまりおすすめできません。肌の状態と、使用感の好みに合うものを選び、シンプルに保湿するといいでしょう。

シャンプーやトリートメントで気を付けることはありますか?

頭皮に症状がある人は、バリア機能を守る弱酸性のものを選ぶようにしましょう。シャンプーをそのまま直に頭皮につける人もおられますが、面倒でもしっかり泡立ててから使いましょう。トリートメントは毛先を中心になじませます。
洗うときは、ツメを立てずに、指のはらでやさしく洗うようにしてください。シャンプーブラシは頭皮への刺激が強いので、使用を控えましょう。

成分としては、メントール配合のものは避けたほうがいいですね。毛染めやパーマも、頭皮に炎症があるときは控えたほうがよいでしょう。頭皮への刺激を防げますし、髪も傷みません。

食事面で注意したほうがよいことはありますか?

バランスのよい食事をとることが基本です。アトピー性皮膚炎の症状が出ているときに香辛料やアルコールを摂取すると、血行を促進してかゆみが出る可能性はありますので、注意するとよいでしょう。

また、食事だけではなく、規則正しい生活を送って質のよい睡眠を十分にとることも大切です。

外用薬によるアプローチが、治療の基本

外用薬によるアプローチが、治療の基本

アトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド外用薬が主流なのでしょうか?

乾燥している部分には保湿剤も使いますが、赤みやかゆみなどの炎症がある部分は、保湿だけでは炎症を沈めることはできません。そういった部位には、ステロイド外用薬を塗るのが基本です。

ステロイド外用薬は、作用の強さにより、ウィークからストロンゲストまでランク分けされています。症状や年齢、部位に合わせて適切なものが処方されます。症状をおさえるためには、必要な量をきちんと塗ることが大切です。

「フィンガーチップユニット」といって、大人の人差し指の先から第一関節までチューブから出した量がひとつの目安になります。これが大体0.5gで、大人の手のひら2枚分の面積に最適な量と考えられています。

ちょうどよい塗り加減がわからないときは、塗った箇所にティッシュペーパーを当ててみてください。肌に貼り付いて落ちないくらいの量が、ちょうどよいと考えられています。

ステロイド以外では、どんな外用薬が用いられますか?

2歳以上に限られますが、ステロイドのほかにタクロリムス軟膏が用いられることもあります。とくに顔や首の症状によく効きますが、ヒリヒリ・ピリピリした刺激を感じる人もいるようです。

抗アレルギー剤はどのような位置付けなのでしょうか?

内服薬として、抗ヒスタミン作用を持つ抗アレルギー剤が用いられることもありますが、アトピー性皮膚炎のかゆみを抗アレルギー剤だけで完全におさえられるわけではありません。外用療法の補助的なものと考えたほうがよいでしょう。

抗アレルギー剤のなかには、副作用として眠気やだるさが出るものもありますので、車を運転する前の服用には注意しましょう。

漢方による治療も行われていると聞きます。おすすめの漢方薬はありますか?

漢方薬は、その人の体質や症状に合わせて処方されるものですので、アトピー性皮膚炎にはこの漢方薬と、一概におすすめすることはできません。漢方では、証(しょう)など、独特の体質の見極め方がありますので、日本東洋医学会で漢方専門医として認定されている医師に相談することをおすすめします。

部位によって症状の出やすさは異なる

部位によって症状の出やすさは異なる

全身のなかでも顔の症状は目立ちやすく、悩む患者さんが多いと聞きます。

顔は症状が現れやすい部位です。常に露出しているので、つい手でかいてしまって悪化するケースもあります。とくに目のまわりは皮膚が薄いので、症状が出やすいですね。

症状を隠そうとしてファンデーションを濃く塗るのは、あまりおすすめできません。配合成分が刺激になったり、メイクを落とすために洗浄力の高いクレンジングも必要になり、さらなる悪化を招いたりする可能性があります。つけまつ毛は、接着剤によってかぶれを起こすことがあるので、使用は避けたほうがよいでしょう。

顔と体では治療方法が異なるのでしょうか?

治療に使う外用薬の成分は皮脂腺から吸収されるのですが、顔は皮脂腺が多い場所です。顔に効きが強いステロイド外用薬を塗ると、副作用が出ることもあります。顔と体で使う薬を分けるのが基本です。

顔のほかに症状が出やすい場所はありますか?

首の症状に悩む患者さんは多いですね。髪の毛やタートルネックなどが触れたときの刺激でも症状が出やすくなります。機能性インナーにより症状が悪化する例もありますので、肌着はなるべく化学繊維を避け、木綿やシルクのものを選ぶとよいでしょう。首を覆うのであれば、シルクのスカーフがおすすめです。

首だけでなく顔もですが、炎症後に色素沈着を起こす場合があります。とくに首の場合は「ダーティーネック」といって、さざ波のような黒ずみが現れるので気にされる患者さんは少なくありません。

ステロイド外用薬のせいで肌が黒くなったと思われる人もいらっしゃいますが、それは間違っています。ステロイド外用薬を塗っていることが原因なのではなく、アトピー性皮膚炎による炎症でメラニン合成がさかんになり、色素沈着を起こしているのです。

火傷や虫さされの後に肌が黒くなるのと同じく、炎症性の色素沈着ですので、炎症が治まれば肌のターンオーバーによって、色素沈着はだんだん薄くなっていきます。適切にステロイド外用薬を使用して、炎症を早く鎮めるといいでしょう。

知っておきたい、アトピー性皮膚炎の最新治療

知っておきたい、アトピー性皮膚炎の最新治療

今注目されている最新の治療法について教えてください。

最新の治療法でいうと、「生物学的製剤」ですね。高い効果が期待できる治療薬で、アメリカではすでに発売されていて、日本でも2018年に認可される予定です。また、「ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬」も新たな治療法として注目されており、研究が進められています。

日本ですでに行われている最新の治療には、どんなものがありますか?

位置付けとしてはステロイドと生物学的製剤のあいだに入る、「ナローバンドUVB照射療法」という紫外線をあてる治療法が保険適用になっています。1~3週間に1回の治療で症状をコントロールしていくものです。

また、最近では「プロアクティブ療法」を提唱する先生もいらっしゃいます。アトピー性皮膚炎の外用療法には、症状が出てから対処する「リアクティブ療法」と、症状が出る前に働きかける「プロアクティブ療法」があります。

アトピー性皮膚炎では、症状がよくなったり悪くなったりを繰り返しますが、プロアクティブ療法は症状がよくなったように見えていても再燃することを防ぐアプローチです。炎症が落ち着いた後も週2回くらい外用薬を塗って、それ以外は保湿剤で状態をキープするといった方法で、炎症症状が出るのをおさえます。

症状の程度を客観的に知る指標みたいなものはあるのでしょうか?

症状の程度をはかるときに、最近では「TARC値」が用いられます。これは、アトピー性皮膚炎の症状が今どの段階にあるのかを示すもので、血液検査によって測定されます。成人の基準値は450pg/mlで、2歳以上の小児では743pg/ml、2歳未満ではさらに値が高くなります。

生物学的製剤やJAK阻害薬などの最新の治療法以外に、欧米と日本における違いはありますか?

日本は欧米と比べ、治療が控えめといわれています。たとえば、チューブのサイズひとつ取ってみてもそう。日本のステロイド外用薬のチューブは5g程度が主流ですが、欧米は30g~100gのものまであるようです。体格の違いもありますが、チューブの大きさがそもそも違うので一度に出る量も違ってきますよね。

治療全体でいうと、大学病院などは紹介状が必要ですが、日本ではある程度スタンダードな治療を誰もが選択できると思います。

よりよい治療を選択するために

よりよい治療を選択するために

信頼できる病院や、医師を探すときのポイントがあれば教えてください。

まずは、日本皮膚科学会の専門医の先生をおすすめします。そして、日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」に沿った治療をするところがいいですね。ガイドラインは日本皮膚科学会のサイト上で公開されているので、誰でも閲覧できます。

アトピー性皮膚炎の治療は長期にわたることもありますので、不安なことや疑問に思うことを気軽に相談できて、きちんと答えてくれる医師が望ましいでしょう。

また、目指すゴールは同じでも、医師によって薬の出し方などは異なります。患者さん自身もガイドラインを読んで、治療に関する知識をある程度持っておくと、治療がよりスムーズになるのではないでしょうか。

最後に、患者さんやその家族がアトピー性皮膚炎の治療とどう向き合えばよいか、アドバイスがあればお願いします。

アトピー性皮膚炎は慢性疾患です。症状が軽い人から重い人までさまざまですし、悪くなったりよくなったりを繰り返すことが多いです。必ずしも「完治」させることがゴールだと考えずに、その時々の症状に合わせて適切に治療して、症状をうまくコントロールすることが大切だと思います。

アトピー性皮膚炎の治療が目指すのは、症状が出ないか、あっても日常生活に支障をきたさず、薬物療法をあまり必要としない状態をキープすることです。いつかは治るだろうという気持ちで、焦らず前向きに治療を進めていってほしいと思います。

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尾見 徳弥 先生
監修:尾見 徳弥 先生
日本医科大学大学院卒業 Aarhus大学客員研究教授、日本医科大学客員教授。日本皮膚科学会美容皮膚科・レーザー指導専門医 日本皮膚科学会認定専門医 日本アレルギー学会認定専門医

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