<知っておきたい>「アトピー性皮膚炎」の正しい知識 (2)「アトピー性皮膚炎」の予防法・対処方法
「アトピー性皮膚炎」は、医療機関での治療が基本となります。そのうえで、日頃の生活のなかで症状を悪化させないよう、スキンケアに気を配り、ライフスタイルを見直すことが大切です。日常を通してできるアトピー性皮膚炎の予防法や対処方法について、皮膚科医監修のもと解説します。
アトピー性皮膚炎の基本的な予防法
アトピー性皮膚炎を発症しやすいアトピー体質の人は、乾燥しやすかったり炎症を起こしやすかったりと、肌が弱い傾向にあります。アトピー体質があっても幼い頃は症状が出ず、大きくなってから環境の影響で発症するケースもみられます。ちょうど、花粉症が大人になってから突然発症することが多いのと同じです。
次のようなことに気を付けて、アトピー性皮膚炎の悪化を防ぎましょう。
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肌の乾燥に注意する
肌が乾燥すると、バリア機能が低下して外からの刺激を受けやすくなり、アトピー性皮膚炎を悪化させる可能性が高くなります。日常を通して、十分な保湿ケアで肌のうるおいを守ることが大切です。とくに乾燥する季節は、加湿器を活用するなどして室内の湿度にも気を配りましょう。
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肌への刺激を避ける
洗顔するときに肌をゴシゴシこすったり、刺激の強い洗浄料を使ったりすることで肌のうるおいに必要な皮脂膜が失われ、発症しやすくなります。また、肌触りのよい衣類を選ぶことも大切です。ナイロンやポリエステルなどの繊維が直接肌に触れるのはよくありません。綿の下着などを着るようにしましょう。
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肌の清潔を保つ
汗や汚れも発症の原因となります。汗をかいたら、なるべく早いうちにシャワーなどで流しましょう。難しければやさしく拭き取り、衣類を着替えます。肌を洗って清潔にしておくことは大切ですが、洗いすぎには注意しましょう。
アトピー性皮膚炎の基本的な対処法
アトピー性皮膚炎になったら、医療機関での治療とあわせて悪化させないような対処が必要です。主な対処法をおさえておきましょう。
主な対処法
悪化を防ぐためには、早めの治療が肝心です。アトピー性皮膚炎の初期症状は見過ごされやすいため、気になる症状が現れたらまずは専門医を受診しましょう。
生活面では、スキンケアとライフスタイルの見直しが対処のポイントとなります。予防法でご紹介したこととあわせて、次のようなことに注意しましょう。
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肌をかきむしらない
激しいかゆみを感じて肌をかきむしると、バリア機能の低下を招き、症状が悪化してしまいます。チクチクする衣類など、かゆみを招くような刺激を避けることも大切です。
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爪を短く清潔に保つ
強いかゆみを伴うアトピー性皮膚炎では、無意識にかいてしまうことがあります。肌が傷ついて悪化するのを防ぐためにも、常に爪を短く切っておき、清潔を保ちます。
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お風呂の温度に気を付ける
湯船やシャワーのお湯が熱いと、かゆみがさらに増してしまいます。低めの温度に設定しましょう。
清潔を保つためにも入浴は必要ですが、症状が急に悪化しているような場合は医師に相談します。ナイロンタオルや石鹸で肌をゴシゴシ洗うのは避けましょう。
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室内を清潔に保つ
こまめな掃除で部屋の清潔を保ちます。空気清浄機の活用も効果的です。
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十分な睡眠をとる
寝不足が症状を悪化させる原因となることもあります。夜ふかしや朝寝坊を控えて生活リズムを整え、質のよい睡眠を十分にとりましょう。
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ストレスをためない
ストレスも悪化の引き金となります。ストレスがたまって肌をかきむしり、さらなるストレスを招くことも考えられます。日常的に楽しめる趣味を持ったり、リラックスできる時間を過ごしたりして、上手にストレスに対処しましょう。かゆみがひどくてストレスになっているときには、医師に相談して抗アレルギー剤などを処方してもらうのもいいかもしれません。
肌の色素沈着(アトピー跡の黒ずみ)の予防、対処法
アトピー性皮膚炎を発症した肌では、炎症後に色素が黒く残ってしまうことがあります。黒くなるのは、炎症後の肌では一般的です。
色素沈着を防ぐうえでは、肌に刺激を与えないことが大切です。炎症を繰り返すことで色素沈着を起こしやすくなるため、医師と相談しながら症状を落ち着かせることが基本となります。
また、アトピー性皮膚炎の肌はバリア機能が低下しているため、紫外線の影響を受けやすくなっています。低刺激タイプの日焼け止めを選ぶなど、肌への刺激に配慮しながら紫外線対策をおこないましょう。
アトピー性皮膚炎治療の最新トピックス
アトピー性皮膚炎の治療が目指すところは、症状がないか、あっても日常生活に支障をきたさず、薬物療法をあまり必要としない状態を維持することです。
アトピー性皮膚炎を短期で根治させる治療法はありませんが、かゆみなどをおさえたり取り除いたりできるように、ステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬の投与など、症状に合わせて治療法が選択されます。また、タクロリムスなどの免疫抑制薬も広く用いられるようになりました。
ステロイド外用薬にはいろいろなランクがあり、たとえば顔に強いステロイド外用薬を長期間用いると副作用を生じることもあります。また、心配される人もいますが、ステロイド外用薬を塗っても肌が黒くなることはありません。
アトピー性皮膚炎の外用療法には、症状が出てからおこなう「リアクティブ療法」と、症状が出る前におこなう「プロアクティブ療法」があります。アトピー性皮膚炎では、症状を繰り返すことが大きな課題のひとつです。プロアクティブ療法は、症状が軽くなった後も治療を継続して再発を防ぐアプローチであり、その有効性が注目されています。
また「光老化」などと悪者にされがちな紫外線ですが、皮膚がんや日焼けを起こす波長を除外した一部の紫外線の波長を「ナローバンドUVB」として照射する治療も、光線治療のなかで健康保険適応になっています。
一方で、新たな治療法として、生物学的製剤の研究も進められています。アメリカではすでに発売されているものもあり、日本でも2018年には認可されます。
さらに、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬など新たな治療薬の研究も進められており、今後アトピー性皮膚炎治療の選択肢が広がることが予想されます。自分に合った治療法を、医師と相談しながら選んでいくとよいでしょう。
アトピー性皮膚炎によくみられる、気になるお悩みを解決
最後に、アトピー性皮膚炎の治療やセルフケアに関して、とくに多いと思われるお悩みをご紹介しましょう。
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アトピー性皮膚炎は完治しますか?
アトピー性皮膚炎の治療が目指すところは、症状がないか、あっても日常生活に支障をきたさず、薬物療法をあまり必要としない状態を維持することです。
あまり目標を高くしすぎると、かえってストレスを感じてしまいかねません。ストレスも悪化の原因となりますので、医師と相談しながら、そのときの症状に合わせて治療を進めましょう。同時に、スキンケアやライフスタイルの改善など、日常を通した対策を続けることも大切です。
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アトピー性皮膚炎はうつりますか?
アトピー性皮膚炎は、アレルギー体質や肌のバリア機能低下などの生まれつきの体質に、乾燥やダニといった後天的な原因が加わって発症するものです。ただし、伝染性膿痂疹(とびひ)や伝染性軟属腫(水いぼ)など感染性のある合併症を発症した場合は、その合併症がうつる可能性はあります。
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アトピー性皮膚炎は遺伝しますか?
アトピー体質の人は、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなります。両親のどちらかがアトピー体質の場合は約60%、両方がアトピー体質の場合は約80%の確率で子どもがアトピー体質になると考えられています。とはいえ、親の症状が重くても、子どもは軽いケースも多くみられます。あまり深刻に考えすぎないようにしましょう。
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お化粧はしても大丈夫ですか?
メイクアップ化粧品を使う場合は、無香料や弱酸性、低刺激性のものがおすすめです。クレンジングをするときは、拭き取りタイプのものより洗い流すタイプのほうが刺激をおさえられます。不安なときは、医師に相談しましょう。
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食事で改善できますか?
3歳以下の乳幼児では、卵や牛乳などが発症のきっかけになることもありますが、食事だけが原因とも限りません。成長するにつれて食事の影響は減り、大人になってからはほとんど関係性がないとされています。
監修:尾見 徳弥 先生
日本医科大学大学院卒業 Aarhus大学客員研究教授、日本医科大学客員教授。日本皮膚科学会美容皮膚科・レーザー指導専門医 日本皮膚科学会認定専門医 日本アレルギー学会認定専門医