<知っておきたい>「火傷(やけど)」の正しい知識 (1)火傷(やけど)の種類・症状を解説
私たちにとって身近なケガの1つである、火傷。軽微なものであれば、ほとんどの方が経験したことがあることでしょう。しかし中には、生命にかかわる重度のものや、薬品によって引き起こされるものも。火傷と一口にいっても、程度や種類はさまざまです。
ここでは皮膚科医の監修のもと、火傷の種類や症状などについてご紹介します。
火傷(やけど)とは?
調理中に誤って鍋に触れてしまった、熱い飲みものをこぼしてしまった、ヘアアイロンが額に触れてしまった…。そんな発生頻度が高いケガである、火傷。まずは、火傷やその跡、類似するケガの定義について確認しましょう。
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火傷
火傷は医学専門用語では「熱傷」と呼ばれるケガで、高温の気体・液体・固体に触れることで、皮膚や粘膜が損傷を受けることを指します。程度を問わなければ、きわめて頻度の高いケガの1つ。患者の年齢として最も多いのは、10歳未満の幼少児です。
症状は損傷を受けた範囲や深さによって異なり、軽いものであれば、少しのひりひりとした痛みはあるものの、治療を受けなくても数日で治癒。基本的には痕が残ることもありません。しかし重度のものになると、皮膚の移植手術が必要になったり、臓器障害などの二次被害を防ぐための全身管理が必要になったりすることもあります。
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低温火傷
医学専門用語では「低温熱傷」と呼ばれる火傷の一種。高温の気体・液体・固体に触れた場合は短時間で火傷(熱傷)となりますが、それよりも温度の低い刺激(40~55℃)が長時間にわたって皮膚に与えられると、低温熱傷になるのです。具体的な原因としては、湯たんぽやカイロなどを長時間同じ箇所に当て続けることなどが挙げられます。患者の年齢として特に多いのは、皮膚が薄い小さな子どもや高齢者です。また、末梢神経の知覚障害がある糖尿病患者にも多く見られます。
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凍傷
火傷が高温の気体・液体・固体にさらされて起こるのに対し、氷点下の寒冷によって皮膚組織が末梢循環障害を起こすことを凍傷といいます。
軽度の場合は、皮膚が蒼白もしくは紫色になり、知覚が鈍感になります。重度になると水疱ができたり、血管障害(血流うっ滞や血栓形成)が起きて体の末端にうまく血液が流れなくなり、壊死したりといったことも起こる可能性があります。
なお、凍傷が氷点下の寒冷にさらされて起こるのに対して、氷点以上の寒冷(気温4~5度、日較差10度以上)で引き起こされるのは凍瘡といいます。凍瘡はいわゆる「しもやけ」で、かゆみを伴う紅斑や水疱が発生。最も寒さが厳しい頃よりも、初冬や終冬に多く見られます。
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火傷の跡
真皮深層より深い部位で起こった火傷の跡は、医学専門用語では「瘢痕(はんこん)」といいます。皮膚から盛り上がる場合も陥没する場合もあり、色素沈着になることも脱色を起こすことも。このように跡の残り方はさまざまで、火傷の程度や治療法の別、患者の体質によって異なります。
これに対し、真皮浅層までの深さで起こった火傷は瘢痕にならず、色素沈着となります。
火傷の原因(仕組み)
私たちの皮膚には、温熱や寒冷などの刺激から自らを守るためのバリア機能が備わっています。
例えば、日光に当たって肌が黒くなるのも、バリア機能の働きによるもの。有害な紫外線が体の深くにまで入ってこないよう、メラニンをつくって防御しているのです。
しかし、このバリア機能にも限界があります。一定以上の刺激、火傷の場合は高温の気体・液体・固体にさらされると、バリア機能は破綻。そうして、火傷(もしくは低温火傷)という損傷につながります。
皮膚が高温の物質に触れると、まず細胞機能が正常に働かなくなります。すると、その付近の血管で血栓がつくられ、血管透過性(血管とその周りの細胞との水分や養分などの行き来)の亢進が発生。これが浮腫につながるのです。
その後の症状の進行は、火傷の範囲や深さによって異なるため、詳しくは後述します。
火傷のレベルと症状
火傷のレベルは、深さと広さの両面から診断します。これによって症状や治療法が大きく異なるので、まずは火傷のレベルがどれくらいなのかを知ることが必要です。
火傷の深度別症状
同じ火傷であっても、程度によって症状はさまざまです。火傷の深さ(深度)は「温度×時間」で計ることができ、I度・II度(浅達性II度と深達性II度とがあります)・III度に分かれています。まずは、それぞれの深度で見られる症状について確認していきましょう。
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I度熱傷(表皮が損傷を受けた場合)
多くの方が一度は経験したことがあるであろう、軽度の火傷。紅斑や浮腫ができ、患部にひりひりとした痛みを感じますが、いずれも数日で改善します。跡になることもありません。
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浅達性II度熱傷(表皮~真皮の一部が損傷を受けた場合)
I度に比べてはっきりと紅斑や浮腫が見られ、損傷を受けてから24時間以内に、紅色の水疱ができます。この水疱が破れてびらん面を呈する(ただれる)ことも。痛みを伴うのも特徴です。完治には2~3週間かかりますが、跡が残ることはありません。
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深達性II度熱傷(表皮~真皮深層まで損傷を受けた場合)
真皮の深くまで損傷を受けると、浅達性II度熱傷のときとは違い、白濁色の水疱ができます。また、知覚が鈍くなるため、痛みを感じることもほとんどありません。完治までには3~4週間かかりますが、水疱が破れて潰瘍化したり、さらに悪化してIII度熱傷に移行したりすることもあります。また、完治後も瘢痕が残ります。
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III度熱傷(皮膚全層、およびそれより深くまで損傷を受けた場合)
III度熱傷になると、患部表面が壊死した組織に覆われ、皮膚は白色または黄褐色、黒色になります。知覚はまったく機能しなくなり、痛みを感じることはありません。患部周辺の表皮増殖を待てば自然治癒も見込めますが、多くの場合は植皮手術が必要に。完治後もひどい瘢痕が残ります。
火傷の範囲を知る方法
上記では火傷の深さについて見てきましたが、これとは別に、範囲を計測する方法もあります。
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9の法則
成人の火傷の範囲を算出するための法則。全身を大きく9分割し(頭・左右上肢・体幹全面と後面・左右下肢・陰部)、それぞれに割り当てられた数値を足すことで、全身にどれくらいの火傷を負っているかを簡易的に診断します。例えば両腕を火傷してしまった場合は、全身の18%に熱による損傷があるという計算です。
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5の法則
9の法則が成人に使われるのに対し、小児や幼児には5の法則を使って火傷の範囲を算出します。考え方は9の法則と同じですが、各部位に割り当てられる数値が異なります。例えば両腕に火傷を負った場合、成人が18%なのに対し、小児・幼児は20%となります。
火傷の重症度分類
火傷の重症度は、軽症・中等症・重症の3つに分けられています。それぞれの基準は以下のとおりです。
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軽度
深度II度の火傷が15%未満、もしくはIII度の火傷が2%未満の場合。医療機関での外来治療が必要になります。
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中等度
II度の火傷が15~30%、もしくはIII度の火傷が10%未満の場合。一般病院での入院治療が必要になります。
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重度
II度の火傷が30%以上、もしくはIII度の火傷が10%以上の場合。その他、顔面や手足、気道の熱傷、軟部組織の損傷、骨折を伴う場合も重度の火傷です。総合病院での入院治療が必要になります。
火傷やその合併症の種類
火傷の原因は熱だけではありません。また、負傷した箇所や程度によって、起こりうる合併症も異なります。
ここでは、火傷とその合併症の種類について見ていきましょう。
火傷の種類
火傷は、原因別にいくつかの種類に分けられます。冒頭でご紹介した熱傷、低温熱傷、凍傷(および凍瘡)の他にも、火傷に分類されるケガはいくつかあります。中には火傷の分類でありながら、熱が原因でないものもあります。
ここからは、火傷の種類について詳しくご説明します。
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電撃傷
電気が体を通過することによって起こる火傷。電撃傷には2つの種類があり、1つは電気火花(スパーク)によって、体の表面に損傷を負うものです。この場合は比較的損傷のレベルは軽くなりますが、着用している衣服が燃えてしまった場合などは、受傷範囲が広がることもあります。
そしてもう1つが、電流が体内を流れることで、体内の組織が損傷を受けるもの。神経や筋肉、血管といったさまざまな組織が電流の熱によってダメージを負い、きわめて重症の火傷となります。電流の強さなどの条件によっては、受傷時に心停止を引き起こすこともあります。
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化学熱傷
以下のような化学物質によって引き起こされる皮膚の損傷。熱によるものではありませんが、火傷と似た症状が見られるため、火傷の一種として分類されています。
- ■酸
- 硫酸、硝酸、塩酸、酢酸など
- ■アルカリ
- 水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなど
- ■腐食性芳香剤
- フェノール、クレゾール、ベンゼンなど
- ■脂肪化合物
- 灯油、石油ベンジン、ホルムアルデヒドなど
- ■金属とその他化合物
- ナトリウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなど
- ■非金属とその他化合物
- リンとその化合物、硫化水素、塩化硫黄など
症状は原因となる物質によって異なりますが、酸の場合は水疱ができた後に皮膚組織が壊死したり、強い痛みを感じたりします。アルカリにはたんぱくを溶かしてしまう性質があり、酸に比べて痛みは少ないものの、損傷が深くまで及ぶケースが多く見られます。
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放射線熱傷(放射線皮膚炎)
放射線による皮膚の損傷で、被爆直後に起こる急性放射線皮膚炎と、半年後以降に起こる慢性放射線皮膚炎とに分かれます。急性放射線皮膚炎の場合、皮膚に痛みを伴う紅斑や浮腫、ただれなどの異変が出現する場合もあります。数週間から数ヶ月で治りますが、以降も患部に毛が生えることはなく、毛細血管の拡張や色素異常などの後遺症が残ります。
慢性放射線皮膚炎の場合は、皮膚の萎縮や脱毛などが起きる「萎縮期」、過角化が進む「角化期」、完治が難しいほどのひどい潰瘍ができる「潰瘍期」、有棘細胞や基底細胞に癌が生じる「癌期」の順に進行。癌期に至るまでには、15~20年ほどかかります。
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気道熱傷
高温の気体を吸い込むなどして、気道に生じる火傷。以下のような症状が見られたら、気道熱傷の可能性があるといわれています。
- ■口の中や喉に腫れが見られる。
- ■口の中や喉に“すす”が付着している
- ■咳が出る、もしくは「ぜーぜー」という呼吸をしている
- ■鼻毛が焼けている
火傷により上気道がふさがり、呼吸困難に陥る場合は、人工呼吸器を使って呼吸管理を行います。
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温熱性紅斑
低温火傷までには至らないものの、熱に長時間かつ繰り返し当たることで紅斑が見られることもあります。これは温熱性紅斑と呼ばれ、熱に当たった部分の血管が拡張して充血し、メラニンやヘモジデリンによる色素沈着が起こることが原因です。電気ストーブに長時間当たることで引き起こされるケースが多く見られます。
火傷の合併症
火傷の恐ろしさは、皮膚に損傷を受けることだけではありません。火傷が引き金になって、さまざまな合併症を引き起こす可能性もあります。ここからは、主な合併症の種類について見ていきましょう。
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脱水症状、低たんぱく血症
火傷を負うと、傷口から水分やたんぱく質を含んだ多量の浸出液が分泌されます。この量が多くなると、脱水症状や低蛋白血症を引き起こすことに。水分やたんぱく質の管理は必須です。
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低容量性ショック
火傷を負うと、血管透過性の亢進が起き、これによって体内を循環する血液の量が減ってしまいます。すると体がショック症状を起こすリスクが高まるのです。ショック症状には、発熱やけいれん、嘔吐などの症状が伴うことも。このため、重症の火傷の場合は、輸液を使ったショック対策を行います。
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臓器障害
火傷で組織に浮腫が生じることで、さまざまな臓器に影響が及ぶこともあります。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- ■気道の閉塞
- ■肝のうっ血、細胞の変性
- ■脳の水腫、軟化
- ■心筋変性
火傷直後に一命をとりとめても、これらの臓器障害が原因となり、死に至ることもあるのです。また、皮膚粘膜に本来備わっていたバリア機能や各種免疫機能が低下も見られます。
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感染症
重症の火傷を負った場合、火傷の傷口からブドウ球菌やMRSA、緑膿菌などの感染を引き起こすことがあります。また、呼吸器や尿路からの感染症や、多臓器不全などの原因になる敗血症にも注意が必要です。
なお化学熱傷では、皮膚に薬品が残っていると、粘膜がそれを吸収して中毒症状を起こすこともあります。
監修:池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長 藤本智子先生
浜松医科大学医学部医学科を卒業後、東京医科歯科大学皮膚科に入局。その後同大学の助教、多摩南部地域病院、都立大塚病院の皮膚科医長を経て、池袋西口ふくろう皮膚科クリニックを開院。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。