「乾癬」の原因・症状・対処法

<知っておきたい>「乾癬」の正しい知識 「乾癬」の原因・症状・対処法

健康情報番組などで紹介され、注目を集めている「乾癬(かんせん)」。病名は知られるようになりましたが、症状や発症の仕組みなどの認知度はまだそれほど高くありません。そこで、皮膚科医監修のもと、おさえておきたい乾癬の基本的な知識についてくわしくお伝えします。

乾癬とは

乾癬とは

まずは、乾癬の定義について確認しておきましょう。

乾癬とは

乾癬は慢性の炎症性皮膚疾患です。日本人の発症率は0.02~0.1%で、患者数は10~20万人と推定されています。欧米の約2%と比べると割合は低いものの、日本人の患者数は徐々に増加しています。男女比は2:1で男性に多く、20歳代と40歳代に多く発症します。

主な症状

乾癬になると、「紅斑(こうはん)」と呼ばれる周囲との境目がはっきりした皮膚の赤みと、「鱗屑(りんせつ)」と呼ばれる銀白色のかさぶたができます。紅斑は盛り上がっており、鱗屑(りんせつ)はポロポロとはがれ落ちていきます。摩擦などの刺激が加わることで、異常がなかった皮膚にも症状が広がることがあります。爪の変形や、関節の痛み・変形が起こることもあります。また、約半数の患者さんがかゆみを感じます。

状態はよくなったり悪くなったりを繰り返しますが、一般的に夏に症状が軽くなり、乾燥しやすい冬に症状が悪化する傾向があります。

みられやすい部位

乾癬は全身の皮膚に生じる可能性がありますが、とくに頭やひざ、ひじ、腰、お尻、爪などによくみられます。関節では、関節痛などの症状が現れることもあります。

  • 乾癬が見られやすい部位

    乾癬が見られやすい部位
乾癬の主な種類

乾癬の主な種類

乾癬は状態によって、「尋常性(じんじょうせい)乾癬」「滴状(てきじょう)乾癬」「膿疱性(のうほうせい)乾癬」「乾癬性紅皮症(こうひしょう)」「乾癬性関節炎」の5つの種類に分けられます。同じ種類のまま経過することもあれば、別の種類に変わったり、複数の種類の乾癬が重なったりすることもあります。

種類
  • 尋常性乾癬

    乾癬のうち約90%が尋常性乾癬に該当します。ポツポツと盛り上がった紅斑から始まり、それが大きくなったりつながったりして直径1~数cmの赤い盛り上がりを形成します。紅斑の表面には銀白色の鱗屑(りんせつ)が付着します。とくに生じやすいのは、ひざやひじ、頭皮(とくに髪の生え際)、お尻などの刺激を受けやすい部位です。爪の変形も多くみられます。

  • 滴状乾癬

    体幹や、手足のうち体幹に近い部位に、1cm大未満の角質化した小さな紅斑がたくさんできます。小児では、風邪をきっかけに全身に症状が現れることもあります。比較的、急激に進行しますが、数か月で症状がおさまるケースが多いのも特徴のひとつです。

  • 膿疱性乾癬

    皮膚の赤みとともに、無菌性の膿疱(水ぶくれが膿んでうみがたまったもの)が多くできる乾癬です。膿疱性乾癬から尋常性乾癬に移行したり、混在したりすることもあります。皮膚にできた膿疱が破れると、ただれが生じます。

    膿疱性乾癬のうち、手のひらや足の裏、指先などの身体の一部だけに症状が出るものは「限局型」に分類されます。一方、全身に膿疱ができるものは「汎発(はんぱつ)型」に分類され、発熱や全身の倦怠感、手足のむくみなどの症状が出るのが特徴です。汎発型膿疱性乾癬は重症であり、とくに症状が現れはじめて急激に進行する「急性期」は、入院治療が基本となります。

  • 乾癬性紅皮症

    乾癬の皮膚症状が全身に出て、皮膚が赤くなった状態です。尋常性乾癬や膿疱性乾癬から乾癬性紅皮症に移行するケースが多くみられます。

  • 乾癬性関節炎

    乾癬の患者さんの10~15%程度に起こり、乾癬特有の関節炎を伴います。指先に一番近い「第一関節」やその次の「第二関節」に多く、肩やひざ、ひじ、かかとなどにも症状が現れることがあります。腫れのほか、ズキズキとうずくような痛み、関節の変形やこわばりもみられます。関節が変形して元に戻らなくなるケースもあるため、早期の診断・治療が重要です。

乾癬に似ている病気

乾癬に似ている病気

乾癬では、次の病気と似たような症状が出ることがあります。皮膚に異常を感じたら、早めに皮膚科を受診しましょう。

  • 脂漏性皮膚炎

    頭や顔、脇の下など、皮脂の分泌が多い部位やこすれる部位が赤くなり、黄色っぽい鱗屑(りんせつ)を伴う湿疹ができます。かゆみはないか、あっても軽度です。

    脂漏性皮膚炎は、新生児期から乳児期初期にみられる「乳児期脂漏性皮膚炎」と、思春期以降にみられる「成人期脂漏性皮膚炎」に分けられます。乳児期脂漏性皮膚炎は2歳ごろまでに自然におさまっていきますが、成人期脂漏性皮膚炎は慢性化しやすく、再発するケースが多くみられます。

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  • 貨幣状湿疹

    手足(とくにひざから足首)、体幹、腰からお尻などに、周りとの境目がはっきりした直径1~5cmの貨幣状または円に近い形で、赤くやや盛り上がった湿疹が、散在もしくは多発します。湿疹の表面がジュクジュクしていることもあります。鱗屑(りんせつ)が付着していることが多く、強いかゆみを感じます。

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乾癬の仕組み

乾癬の仕組み

次に、乾癬になる仕組みをみていきましょう。

皮膚の表面には、薄くて丈夫な「表皮」があります。表皮の一番下にある基底層で生まれた表皮細胞は、だんだん上に押し上げられて平べったい角質細胞となり、最後はアカとなってはがれ落ちます。これを肌の新陳代謝(ターンオーバー)といい、正常な皮膚ではこのようにして約45日の周期ですべての細胞が生まれ変わっています。

一方で、乾癬の皮膚では新陳代謝の周期が4~7日と極端に短くなることがわかっています。サイクルが早まることで「角質細胞」が過剰につくられ、鱗屑(りんせつ)が次々に形成されていきます。また、表皮とその奥にある真皮に白血球などの血液成分や炎症を起こす物質が増えるため、皮膚が赤くなって盛り上がったり、かゆみが起こったりすることもあります。

  • 乾癬の仕組み

    乾癬の仕組み
乾癬の原因

乾癬の原因

乾癬の根本的な原因はまだはっきりとは解明されていませんが、もともと乾癬になりやすい体質にさまざまな要因が重なることで免疫に異常が生じ、乾癬を発症すると考えられています。乾癬の引き金となる要因には、次のようなものがあげられます。

原因
  • 遺伝的な要因

    乾癬の発症は遺伝的なもの、つまりもともとの体質がベースとなると考えられており、乾癬になりやすい遺伝子がいくつか見つかっています。日本人の乾癬の患者さんがいる家族に発症する頻度は4~5%とされています。

  • 外的な要因

    外部刺激や感染症、食生活、飲酒、喫煙などの外的な要因も乾癬の引き金となることがあります。

  • 内的な要因

    乾癬では、肥満や高血圧、糖尿病、脂質異常症などを伴う「メタボリックシンドローム」を合併することが多く、メタボリックシンドロームも乾癬の発症に関わると考えられています。

乾癬の対処法

乾癬の対処法

乾癬の対処法としては、「病院での治療」と「セルフケア」の2つのアプローチがあげられます。

病院での治療

乾癬の悪化を防ぐうえでは、皮膚科専門医のいる病院を早めに受診して適切な治療を受けることがとても大切です。

乾癬の治療法には、大きく分けて「外用療法(塗り薬)」「光線療法(紫外線療法)」「内服療法(飲み薬)」「注射療法」の4つがあります。よくなったり悪くなったりを繰り返す乾癬では、病気の状態や患者さんの状況に合わせて治療法を選択していきます。

  • 乾癬の治療方法

    乾癬の治療方法
    引用:飯塚一:J Visual dermatol 16(9), 850-851, 2017より改変

上図は治療方法を表したもので、上にいくほど乾癬の重症度が上がっていきます。まずは塗り薬を使っての治療を基本としながら、乾癬の症状をコントロールしていきます。

生物学的製剤は2010年から日本でも使用できるようになったもので、乾癬の発症を引き起こす物質をピンポイントでおさえる注射を使った治療法です。すべての患者さんに効くとは限りませんが、多くの患者さんに有効であると注目されています。生物学的製剤による治療を希望するときは、日本皮膚科学会が指定する病院を受診する必要があります。

日常を通したセルフケア

病院での治療とあわせて、日常生活では次のような点に気をつけて過ごしましょう。

  • 皮膚への刺激を避ける

    皮膚をこすったり、鱗屑(りんせつ)を無理にはがしたりすると乾癬を悪化させてしまうため控えましょう。刺激で症状を悪化させないよう、衣服は柔らかい素材で、ゆったりしたデザインのものがおすすめです。ひじやひざをついたり、長時間正座したりするのも負担となるため注意します。

  • 入浴時の洗い方に注意する

    清潔を保つために入浴やシャワーは大切ですが、身体も頭皮もゴシゴシと強い力で洗いすぎるのは禁物です。すすぎ残しがないようよく洗い流し、入浴後は吸水性のよいタオルを使って、こすらずに水分を吸い取るようにして水気をふき取ってください。

  • 皮膚が乾燥しないよう保湿ケアする

    皮膚の乾燥も症状を悪化させる要因のひとつです。保湿剤で全身をきちんと保湿して、乾燥から皮膚を守りましょう。

  • 日光浴を適度に取り入れる

    適度に日光浴をすることは、乾癬の症状改善につながります。ただし、紫外線を浴びすぎると乾癬が悪化するため、日焼けしない程度におさえましょう。

  • 肥満に注意する

    脂肪や糖質の多い食品のとりすぎを控え、適度な運動を習慣づけましょう。

  • 飲酒や喫煙を控える

    アルコールのとりすぎや喫煙習慣は、乾癬に悪影響を及ぼします。自分が吸うタバコだけでなく、周りの人が吸うタバコの副流煙にも注意しましょう。

  • ストレスをためない

    ストレスは乾癬の症状を悪化させる要因となります。趣味に没頭する時間をもつなどして、ストレスをためない工夫を取り入れましょう。

  • 質のよい睡眠をとる

    質のよい睡眠を十分にとることも、乾癬のケアに役立ちます。夜寝る前はテレビやスマートフォンなど強い光を放つものの使用を控え、リラックスした時間を過ごすなどして、スムーズな眠りにつなげましょう。

乾癬に関するお悩みを解説

乾癬に関するお悩みを解説

乾癬について気になるお悩みを解説します。

  • 乾癬はうつるのでしょうか?

    治療を始める前は、周りの人に乾癬がうつるのではないか、家族と同じお風呂に入らないほうがいいのではないかと心配されている患者さんもおられますが、乾癬は決してうつることはありません。

  • 乾癬は治るのでしょうか?

    乾癬は難治性ですが、治療によってコントロールできる病気です。なかには、長期間にわたって症状が出ない状態を保っている患者さんもおられます。

    乾癬の症状は人それぞれですし、抱えている悩みも人それぞれです。たとえば、黒い服を着たいけれど鱗屑(りんせつ)がフケのように目立って気になるという患者さんの場合は、頭皮に塗る薬を調整するなど、悩みに合わせた治療法の選択が生活の不便さを減らすことにつながります。気になることがあれば、皮膚科専門医に相談してみましょう。

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川田 暁先生
監修:近畿大学医学部皮膚科主任教授 川田暁先生
東京医科歯科大学医学部卒業後、防衛医科大学校皮膚科講師、帝京大学医学部附属市原病院皮膚科助教授、近畿大学医学部皮膚科助教授などを経て現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・指導医、日本レーザー医学会認定専門医・指導医。日本皮膚科学会、日本レーザー医学会、日本乾癬学会、アメリカ皮膚科学会、ヨーロッパ皮膚科学会などに所属。

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