開発秘話 寝る前の一滴で角膜修復に挑む。

睡眠中の「目」自体の修復過程に注目し、角膜修復とうるおい補強を目指し
また、睡眠前に点眼できるやさしさを兼ねた今までにない目薬の開発秘話。

  • 製品開発部 上野開発研究センター 車田 寿樹
  • 商品企画部 企画1グループ 山田 悦子

開発秘話 Episode01 ユーザーの声から始まった。

養潤水の意外なユーザー像

商品企画部には、毎日、多くのユーザーから製品に対するさまざまな意見が寄せられる。特に、ユーザーから返信されてくる製品添付のアンケートには、たいへん貴重な情報が込められている。こうした意見は、製品の品質や機能を向上させていくための貴重なデータにまとめ上げられる。商品企画部の山田は、ある商品のアンケート葉書の返信内容が気になっていた。

その商品とは、1997年の発売以来、長く市場の支持を得てきた「新・ロート養潤水」という目薬だった。この目薬は「いくつになっても健康な瞳を保ちたい」という高齢者のニーズに応えるために開発され、そのブランド名はもちろんのこと、パッケージや容器に至るまで、高齢者層に受け入れられやすいような配慮がなされていた。
だが、意外にも、そのアンケート葉書が、OL層を中心とした若い女性ユーザーから返信されるケースが増えてきていた。

経験からの仮説

当時の「新・ロート養潤水」は、その名の示すとおり「目に栄養と潤いを与える」というコンセプトのもと開発された商品で、ビタミンやアミノ酸などの栄養成分が配合され、目のかすみや目の疲れなどに効果を発揮する点眼薬だった。この製品特徴が、いつしか若い女性ユーザーの支持をも獲得していたことを、これらのアンケートは物語っていた。

「この商品の支持層が変化した背景には、コンタクトレンズの長時間装用や、職場でのパソコン利用時間の増加など、日常的に“目”に負担をかけるケースが増えていることに関係があるのではないだろうか?」
山田はこうした仮説を立て、それを実証すべく、女性ユーザーを対象に「目に対する不安」についてさらに詳細なアンケート調査を実施した。

1386名の女性ユーザーにアンケートを行った結果、89.8%もの人が「日中に目に負担をかけている」と答え、コンタクトレンズ装着者の92.9%が「コンタクトレンズ装着により目に負担をかけている」と感じていることが分かった。ある程度高い数字を予想していたものの、結果は予想をはるかに超える内容だった。
そしてこのアンケート結果に込められたユーザーの声が、新しい「ロート養潤水」の開発プロジェクトを始動させた。

開発秘話 Episode02 目標は角膜細胞の修復

ポイントは「目のダメージの回復」

商品企画部でまとめられたアンケート結果を携え、山田は製品開発部のドアをたたいた。
「これだけ多くの人が、目にダメージを受けていると感じているのか。」そのデータに目を通した開発担当の車田は、驚きを隠せなかった。
山田は「目に負担を感じている人たちのために、よりよい目薬を作りたい。」という想いを車田に伝えた。こうして、山田と車田を中心としたプロジェクトのメンバーは、より多くの人に愛される製品づくりのため、リニューアルの方向性の検討を始めた。

「新・ロート養潤水」のように長く市場で支持されてきた商品の改良はたやすいものではなかった。
このブランドに愛着を持つ既存ユーザーの満足度を下げることなく、新たにユーザーが求める機能を追加することが求められていたからである。
開発の方向性を探るため、従来品が持つ機能的特徴とユーザーから寄せられた意見について、さまざまな角度から検証が行われた。その結果、特にユーザーからの支持が高かった「目のダメージの回復」というポイントに焦点を絞った開発が始まった。

従来品は、「寝る前にもさせる、おだやかな清涼感のある目薬」というニーズに応えるため、目に対する作用がやさしい成分で処方されていた。その特徴は「おやすみ前にも一滴」というパッケージのコピーにも込められていた。しかし、新しい「ロート養潤水」にはもう一歩踏み込んだ機能、すなわち「睡眠時に目のダメージを実際に修復する目薬」であることが必要だった。
そこで車田は、細胞レベルのダメージ修復を検証すべく新たにスタッフを招集した。

車田の指示のもと、研究開発チームでは、連日、昼と夜を想定した角膜上皮細胞の増殖に関する実験が繰り返された。
その結果、角膜上皮細胞に光を当てた場合と遮断した場合を比較すると、光を遮断した細胞の方が約1.5倍も増殖率が高まることが実証された。さらに睡眠時は、長時間目を閉じているため、外界からの刺激やストレスを受けることも少ない。
「日常生活において、光の刺激を受ける日中よりも、夜間の方が目のダメージの修復に適しているのではないか。」プロジェクトのメンバーたちは確かな手応えを感じていた。

車田は、従来品の「睡眠前でも安心して使える成分処方」を守りつつ、新たに「睡眠時の角膜細胞修復に高い効果のある処方」を目標に掲げ、その処方設計に着手した。
パッケージの「おやすみ前にも一滴」というコピーを変更することなく、そこに新たな価値を付け加える。それがプロジェクトの目標となった。

開発秘話 Episode03 多くの女性に支持される為に

伝統を守りながらのイメージの刷新

車田が新しい「ロート養潤水」に求めたものは、ダメージを受けた角膜細胞をやさしく『養』い、瞳に『潤』い感を持たせ、そして細胞レベルで『修復』するための機能である。

角膜細胞を『養』うためには、目の細胞呼吸を促進することが重要である。さらに、角膜細胞に栄養を与えることで、血行を良くし、その新陳代謝を高める。同時に、角膜表面を保護することも必要となる。これらの機能が実現できる成分の組み合わせを求める一方で、従来品の特徴である「睡眠前でも安心して使える」という点にも配慮しなければならなかった。
そこで車田は、使用するすべての有効成分をもともと瞳にあるものにし、そのpH値も涙と同じ7.4に合わせるなど、さまざまなこだわりを込めながら設計をすすめていった。

また、瞳に『潤』い感を持たせるため、粘稠剤として「ヒアルロン酸ナトリウム」の配合にも挑んだ。ヒアルロン酸はしっとり感を与える成分で、最近では美容液などに配合されることも多くなってきた成分である。
こうした多くの成分がチカラを合わせ、角膜細胞の自己修復力をサポートし、寝ている間に角膜が『修復』されるベストの処方を探していくのだが、処方される成分が多くなると、製剤が不安定になってしまうこともある。さまざまな試行錯誤を重ねながら、車田は製剤の安定化に成功。ようやく試作品の段階へとたどりついた。

一方、山田は、「養潤水」の伝統を守りながらそのイメージを一新するための工夫を重ねていた。ブランド名を変更せずに新しい特徴の追加を訴求し、より多くのユーザーの支持を獲得するためには、パッケージや容器にもこだわる必要があった。

新しい「ロート養潤水」に添加物としてヒアルロン酸ナトリウムを配合するという連絡が山田に届いたのは、新しい容器のデザインについて検討が重ねられている頃だった。ヒアルロン酸は、保湿剤として化粧品に配合されることも多く、女性ユーザーの認知度も高い成分である。
この「ヒアルロン酸」というキーワードのもと、新デザインは「幅広い世代の女性に潤い感を与える美容液のような目薬」という方向で進められた。

このような過程を経て、新しい「ロート養潤水」はようやく試作品としてその姿を現した。

開発秘話 Episode04 数々のこだわり、そして完成

ユーザーの意見の集大成「ロート養潤水」

山田は社内の女性社員を対象に、新しい「ロート養潤水」のパッケージデザイン評価を行い、手応えを感じ始めていた。しかし、一番重要なのは実際の使用感である。
目に対する刺激の受け止め方には個人差があるが、ごくまれに、眼球に非常に繊細な感覚を持つ人が存在する。ロート製薬社内には、「ソムリエ」のごとく目薬のわずかな処方の違いを敏感に感じ取ることができる社員が数人いる。
この特殊な資質を持つ社員の協力を仰ぎ、そのさし心地についての感想をレポートしていった。

従来品の良さを保ちつつ新しい機能を追加し、幅広いユーザーに受け入れられる新処方。この命題に対する答えとしての試作品に、車田は自信を持っていた。目薬の違いに敏感な社員たちの評価も良好だった。だが、あるひとりの女性社員の意見に、メモをとる車田の手は止まった。
「香りが少し違うかも…。せっかく容器にもこだわっているんだから、香りにもこだわっては?」

確かに、目薬の機能を高めるというここまで開発過程において、香りについての検討はなされていなかった。
「女性は、目薬の香りにもこだわることがある。」
この意見に衝撃を受けた車田は、ようやく完成を目前にした処方にさらに手を加えることを決意した。点眼時に心地よさを感じる繊細な芳香にもこだわり、何人もの女性スタッフの意見を採り入れながら、細かな調整が繰り返された。
そしてついに、これまでの目薬にはなかった、「睡眠時の角膜細胞修復に着目した目薬」という新しいコンセプトの商品、解眼新書シリーズ「ロート養潤水」は完成した。

「養潤水は昔から使っていますが、パッケージが新しくなって、差し心地も良くなりましたね。」
「寝る前にさすと、落ち着くっていうか、スーとする香りがして、瞳の疲れも癒されてぐっすり眠れます。」
現在、新しく生まれ変わった「ロート養潤水」には、こうしたユーザーの意見が寄せられている。

「このロート養潤水が、今夜もおやすみ中のお客さまの瞳にエールを送っています。今回の開発には多くのこだわりをもって挑みましたが、これも多くのお客さまのご意見があったから。これからもいろんな声にどんどん応えていきたいですね。」車田はプロジェクトをこう振り返る。

商品企画部には、今日も新たなユーザーの声が届けられる。そして、その声は次の新たなプロジェクトを始動させていくことだろう。

詳しい製品情報はこちら