山田は社内の女性社員を対象に、新しい「ロート養潤水」のパッケージデザイン評価を行い、手応えを感じ始めていた。しかし、一番重要なのは実際の使用感である。
目に対する刺激の受け止め方には個人差があるが、ごくまれに、眼球に非常に繊細な感覚を持つ人が存在する。ロート製薬社内には、「ソムリエ」のごとく目薬のわずかな処方の違いを敏感に感じ取ることができる社員が数人いる。
この特殊な資質を持つ社員の協力を仰ぎ、そのさし心地についての感想をレポートしていった。
従来品の良さを保ちつつ新しい機能を追加し、幅広いユーザーに受け入れられる新処方。この命題に対する答えとしての試作品に、車田は自信を持っていた。目薬の違いに敏感な社員たちの評価も良好だった。だが、あるひとりの女性社員の意見に、メモをとる車田の手は止まった。
「香りが少し違うかも…。せっかく容器にもこだわっているんだから、香りにもこだわっては?」
確かに、目薬の機能を高めるというここまで開発過程において、香りについての検討はなされていなかった。
「女性は、目薬の香りにもこだわることがある。」
この意見に衝撃を受けた車田は、ようやく完成を目前にした処方にさらに手を加えることを決意した。点眼時に心地よさを感じる繊細な芳香にもこだわり、何人もの女性スタッフの意見を採り入れながら、細かな調整が繰り返された。
そしてついに、これまでの目薬にはなかった、「睡眠時の角膜細胞修復に着目した目薬」という新しいコンセプトの商品、解眼新書シリーズ「ロート養潤水」は完成した。
「養潤水は昔から使っていますが、パッケージが新しくなって、差し心地も良くなりましたね。」
「寝る前にさすと、落ち着くっていうか、スーとする香りがして、瞳の疲れも癒されてぐっすり眠れます。」
現在、新しく生まれ変わった「ロート養潤水」には、こうしたユーザーの意見が寄せられている。
「このロート養潤水が、今夜もおやすみ中のお客さまの瞳にエールを送っています。今回の開発には多くのこだわりをもって挑みましたが、これも多くのお客さまのご意見があったから。これからもいろんな声にどんどん応えていきたいですね。」車田はプロジェクトをこう振り返る。
商品企画部には、今日も新たなユーザーの声が届けられる。そして、その声は次の新たなプロジェクトを始動させていくことだろう。