はじめはただ自然の中で生活がしたかったんです。この村に住み始めて、季節ごとに咲くいろんな花がきちんと庭に植えられている景色に感動しました。稲刈りの稲でしめ縄をつくったり、大根を保存するために漬物にしたり。昔の人たちは自然をうまく取り込んで生活していた。それで、私もこの場所で自然と人間の共存をまんなかに置いて生活がしたいと思って、ここで仕事を作ろうと、この地域で有名なお茶摘みの体験ツアーなどを始めました。それから、泊まれる場所もみずから作ろうと考えていたときに、村の方からご紹介を受けて、この場所を受け継げることになり、ume,ができました。
ume,が目指すのは、障がいや病気、性別や宗教、年齢にとらわれることなく、いろんな人が心穏やかに、優しくなれる場所。私には家族に障がいや病気のある人がいますが、そういう生き物としていびつや弱さがあると言われるような存在が自然の中にはいっぱいある。でも、たとえば、足の折れたセミが森の中にいたとして、それを自然の生き物たちはわざわざ取り立てて言わないじゃないですか。「まあ、そんなもんやろ」って言えるような感覚。それが当たり前の世界、文化をつくりたいと思いました。
優しくなるためには、その前に身の回りにある人やもの、さらにその背後にある時間とか思いみたいなものに気がつき、それを慮るという段階が必要です。私たちはその「気がつく」という過程を、さりげない形で支えることを続けています。それは料理やサウナみたいなホテルのサービスにおいてもそうだし、「雨が降って空気中の塵が流されて、今はとても空気が澄んでいる」ってさっきも話してましたけど、そういう会話を通じて、焦点のあて方を変えていく。その背中をそっと押しているような感覚です。