interview

Vol.04

肌のふれあいがもたらす
コミュニケーションの力

「肌のふれあいは言葉以上にゆたかなコミュニケーションを可能にするということに気がつきました」


そう語るのは、ワーキングホリデー制度を使ってオランダ・ロッテルダムに来ている発明家 / プロダクトデザイナーの高橋鴻介さん。


「接点の発明」をテーマに活動を続ける高橋さんが、オランダで見つけた「ふれあうこと」の可能性について。


Kosuke Takahashi

発明家 / プロダクトデザイナー。1993年、東京生まれ。『接点の発明』をテーマに、人と人の間につながりを生み出すためのプロダクトを制作している。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、電通に勤務。その後、2022年に独立。主な発明品に、点字と文字が一体になった書体『Braille Neue』、触覚ゲーム『LINKAGE』、オンラインで競い合える『ARゆるスポーツ』など。

知らない世界との共通点を生む「接点の発明」

大学でプロダクトデザインを学び、卒業後は広告代理店で働いていました。でも、クライアントワークが中心の仕事だったので、自分の手でプロダクトを作りたいと思うようになり、「毎日1つの発明をノートに書く」という発明活動を始めました。


ある日、先輩が視覚障害をもつ方のいる施設に連れて行ってくれました。そこで友達になった方が、視覚だけに頼らない世界の魅力をすごく楽しそうに教えてくれたんです。そのときの経験から、目でも指でも読める点字「Braille Neue(ブレイルノイエ)」や触覚を使ったゲームが生まれました。


そこで、全く異なるコミュニティの人々がプロダクトを通じて仲良くなったり、出会いのきっかけになったりする可能性に気づき、それを「接点の発明」と呼んで、自分の活動の軸にすることに決めました。自分自身、言葉でのコミュニケーションに苦手意識があり、言葉以外のコミュニケーション方法を探っていたことも背景にあるんだと思います。


会社を辞めてフリーランスになってからオランダに来たのですが、それも半分直感で。昨年旅行で来た時に見たDutch Design Week(ダッチデザインウィーク)の雰囲気が自分に合うと感じて、参加してみようと思ったんです。そこではみんなが自分の好きなことを「どうやったら社会と接続できるか」という視点でつくられたものが多くて、とってもオリジナルな作品が多いんです。オランダのデザインは、自分の表現はしっかり持ちつつ、それでいて「社会に一言いいたい!」という意志がある。自分と社会のバランス感がとてもよくとれているなと感じています。

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言語に頼らないコミュニケーションを

今年(2024年)の10月にDutch Design Weekに参加したのですが、そこでは「触れる」をテーマに展示を行いました。盲ろう者で触覚デザイナーの田畑快仁(はやと)くんとミラノ在住のデザインリサーチャーで手話通訳士の和田夏実さんと一緒に「MAGNET」というチームを組んでいて、日本とイタリアとオランダという三拠点で準備を進めていたんです。


目を閉じて同じテクスチャーのカードを探す「たっちまっちカード」など、二人とはこれまでもプロダクト制作をしたことがあり、活動や対話を通じて「触覚こそ最も情報量の多い感覚のひとつなんじゃないか」と気付いたことが、今回のテーマ設定のきっかけになっています。「たっちまっちカード」のようなユニバーサルな感覚、触覚的な視点で楽しめる遊びもそうですし、ハグや握手といった肌のふれあいから得られる情報は、言葉や手話でやりとりする以上にゆたかなんです。


二人と話していると、同じ世界で生きているはずなのに、なんだか驚きの連続で。新しい視点が自分の中に入ってくることで、今まで気づかなかったことにも想像力が働くようになって、新しい世界の扉が開いていく感じ。まるでRPGで新しい装備を手に入れた感覚です(笑)。


最近はどんどんひとりで生きていけるような個別主義の時代になっていますが、人といること、コミュニケーションがあることで救われることってたくさんあると思うんです。お互いは別の個体だけど、共感できるポイントを見つけることで、ぐっと共有領域が広がっていく。その接点のきっかけを作ることこそが、自分のプロダクトの目的なんだと思います。

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オランダという街に惹かれる理由

日本にいると「わざわざ言わなくてもわかるよね」という「察する」風潮があるように思います。でも、オランダには言語も国籍も全く違う人たちが集まっているので、まず相手を知ろうとするところからコミュニケーションがスタートします。例えば、オランダ語が聞き取れなくて戸惑っている僕に対して英語や身振り手振りで伝えようとしてくれたり、カフェの店員さんがカジュアルに「最近どう?」って話しかけてくれたり。柔軟でマイクロなコミュニケーションが浸透しているんです。


僕がオランダで見て嬉しかった光景は、電車のホームで車椅子の人をみんなで協力して運んでいたところ。日本だと駅員さんがやってくれるからと、見て見ぬふりをする人も多いですが、オランダでは当たり前にみんなが助け合っている。人と人とのコミュニケーションによって、いろいろな問題を解決しているように感じます。


そもそも、オランダではデザイナーに対するサポートも手厚く、社会課題に対してデザインでどう向き合うかということに対して、ポジティブに向き合ってくれる。デザインが社会課題の解決に貢献していて、みんなが楽しめる日常生活の一部になっている国なんです。そんな景色を見ながら、これからも新しいプロダクトを作り続けていきたいですし、これまでの発明品が世界中で役に立てるようにしていきたいなと思っています。

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interview Vol.04 Kosuke Takahashi