essay連載 『肌身離さず、』

Vol.03

私の支えとしてあり続ける、朝の海

ずっとそばに持っておきたい、置いておきたくなるお守りのような存在を表す「肌身離さず」という言葉。


そんな言葉を聴いたとき、私たちにとって当たり前の存在である「肌」がいろんなことに気づかせてくれるように思います。肌に触れるような距離感にある物や存在について話を伺ってゆく連載エッセイ、「肌身離さず、」。


第三回目は、岩手県陸前高田市でわかめ生産者・編集者として働く三浦尚子さん。漁業アルバイトを経て本格移住を決意した三浦さんが、毎日をともにしている「海」という場所について。

updated 2024.11.15
Selected by
hisako miura
わかめ生産者・編集者

ずっとそばに持っておきたい、置いておきたくなるお守りのような存在を表す「肌身離さず」という言葉。


そんな言葉を聴いたとき、私たちにとって当たり前の存在である「肌」がいろんなことに気づかせてくれるように思います。肌に触れるような距離感にある物や存在について話を伺ってゆく連載エッセイ、「肌身離さず、」。


第三回目は、岩手県陸前高田市でわかめ生産者・編集者として働く三浦尚子さん。漁業アルバイトを経て本格移住を決意した三浦さんが、毎日をともにしている「海」という場所について。

profile

1991年生まれ。大学卒業時に岩手県陸前高田市で約1カ月間の漁業アルバイトを経験した後、2014年5月に同市に移住。牡蠣やわかめの養殖作業に携わり、2020年にわかめの生産者として独立。"ura"の屋号でわかめ養殖のほか、ライフスタイルブランド”ura”を立ち上げ、一次産業の廃棄物からアップサイクルしたプロダクト開発、販売をしている。

肌身離さず、

「もしかしたら、いつかは実家のある神奈川県に帰るかもしれない」というのを頭の片隅に置きながら、東日本大震災でのボランティアのご縁から陸前高田に住みはじめて、気付けば10年半が経つ。


暮らしはじめた最初の頃は今までなじみのなかった海の仕事、土地の言葉、同年代のいない環境、暮らしのすべてに慣れるまでに時間がかかり、よく体調を崩した。環境に慣れない頃は真冬の凍える寒さや冷たすぎる風がとても身に染みて、冬は好きになれないと思った。紫外線や潮風、海水で肌荒れや日焼けもした。


「いつかは帰ることがあるかも」とどこかで思いながらも、なんだかんだ暮らしや仕事を続けているのは、この場所で夜から朝へと変わっていく時間帯の海の景色を見続けたいという気持ちがひとつあるんだと思う。元々地縁のなかった土地で暮らす私にとって、「朝の海」は心の支えであり、癒しでもあった。


私の生まれ育った故郷はどちらかというと利便性の悪くない町で、住宅街の中に実家がある。実家の近くには適度にお店があり、学校も近く、暮らしに不便しないところ。そのかわり自然が周りにたくさんあるわけではなく、海は近くになかった。


真冬の朝は冷たすぎる風が肌に吹きつけてつらいなと感じることもあるけど、夜から朝へとあけていくグラデーションの海を見ていると「今日も1日やっていこう」と、すーっと心はおだやかになっていく。私にとって大切な時間。


「肌身離さず」といったらだいぶ大袈裟な表現かもしれないけど、これからもここでゆるやかに朝の海を見続けられたら良いなと思う。

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