「もしかしたら、いつかは実家のある神奈川県に帰るかもしれない」というのを頭の片隅に置きながら、東日本大震災でのボランティアのご縁から陸前高田に住みはじめて、気付けば10年半が経つ。
暮らしはじめた最初の頃は今までなじみのなかった海の仕事、土地の言葉、同年代のいない環境、暮らしのすべてに慣れるまでに時間がかかり、よく体調を崩した。環境に慣れない頃は真冬の凍える寒さや冷たすぎる風がとても身に染みて、冬は好きになれないと思った。紫外線や潮風、海水で肌荒れや日焼けもした。
「いつかは帰ることがあるかも」とどこかで思いながらも、なんだかんだ暮らしや仕事を続けているのは、この場所で夜から朝へと変わっていく時間帯の海の景色を見続けたいという気持ちがひとつあるんだと思う。元々地縁のなかった土地で暮らす私にとって、「朝の海」は心の支えであり、癒しでもあった。
私の生まれ育った故郷はどちらかというと利便性の悪くない町で、住宅街の中に実家がある。実家の近くには適度にお店があり、学校も近く、暮らしに不便しないところ。そのかわり自然が周りにたくさんあるわけではなく、海は近くになかった。
真冬の朝は冷たすぎる風が肌に吹きつけてつらいなと感じることもあるけど、夜から朝へとあけていくグラデーションの海を見ていると「今日も1日やっていこう」と、すーっと心はおだやかになっていく。私にとって大切な時間。
「肌身離さず」といったらだいぶ大袈裟な表現かもしれないけど、これからもここでゆるやかに朝の海を見続けられたら良いなと思う。