interview

Vol.03

毎日のとりとめのない
選択たちを応援するために

直接肌にデザインを残すタトゥーという文化への憧れをきっかけに、「opnner」(オプナー)というタトゥーシールのブランドを始めたKaho Iwayaさん。


小雨の降る都会の昼下がりに、カフェでタトゥーシールを広げて、落ち葉のモチーフやタトゥーの図案を眺めたり。散歩をしながら、ときどき立ち止まって街中の気になる模様を教えてくれたり。そんなおだやかな時間のなかで、「肌とこころ」についてIwayaさんが教えてくれたこと。

Kaho Iwaya

ポートランドのタトゥー文化に影響を受け、日本のタトゥー文化を拓くため、2015年に「opnner(オプナー)」を立ち上げる。タトゥーシールを制作販売する他、タトゥーの図案も担当する。

こころと身体をつなぎとめるもの

学生時代、好きなアーティストがタトゥーを入れていたり、雑誌でかわいいタトゥーを見たりして、憧れがありました。ちょっと悪さをしてるみたいな特別な感覚もあったんやと思います。最初は油性ペンで自分の腕に丸を描きました。そうすることで、単純にそのアーティストの真似をしているような喜びや、近づいているような感覚があったんです。「それ、タトゥー?」と聞かれることもあって、そんな存在の不思議さにも憧れがありました。


タトゥーって私にとってなんだろう?とよく考えました。大人になってどんどん忙しくなって、親との死別も重なり、あるとき心身がバラバラになるみたいな感覚になりました。それで、なにかにすがりつきたくなったとき、タトゥーがこころと身体をつなぎとめるもののように思えたんです。それは、祈りや願い、誓いみたいなものでした。


タトゥーがそんなふうにだれかの岐路を応援するものだとしたら、opnnerのタトゥーシールはそこにつながる毎日のとりとめのない選択たちを応援するためのもの。日々を私の視点に立って一緒に見てくれてるような感覚かなぁ。職業的にタトゥーが見えてはいけない人も、自分だけが見える服の下に貼ってますって教えてもらったことがありました。トイレの時にふと目に映って頑張れると言ってくれる人もいます。

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毎日、肌のちかくで身につけるものと選ぶもの。

昨年から1年間バンクーバーに留学していました。家から学校に向かう海沿いの道で、毎日目が合う木があったんです。それがマジでかっこよくて。その木は私にとって心の拠り所にしていた大切な存在で。なんとなく立ち寄るタイミングには必ず、その木に挨拶するようになりました。


同じように、私は世界のいろんなところで集めたり、もらったりした大切なネックレスをお守りのように肌身離さずつけています。寝る時もずっとつけています。私にとってタトゥーシールは日々選ぶものやから、つけない日もあるんです。肌に一番近いものやけど、お守りの存在の距離感はそれぞれ違うんですよね。だけど、肌に直接触れる形でそれらがあることに意味がある。


タトゥーシールを選ぶときは自分がなにを考えてるかを自分にちゃんと問うし、反対に問われてるような気もする。シールが「今日僕が行きますよ〜」って言ってくれて、そのシールを選ぶこともある。日々なにかの選択の連続ですよね。世の中に選べないものがある中で、自分が感じ考え選べたときには、自分で選んだものを愛して、選んだことを正解にしていきたい。そうして、納得いく形でそばに置いておきたいんやと思います。

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生まれてくる感情に水を差す必要はない

バンクーバーから帰る前、ハネムーンで訪れたインドのホテルで起きたとある出来事に、本気でブチギレるという経験をしました。そのときに、許せないものは許せない、そこから生まれる怒りを相手に伝えるということが、自分を納得させる一つの手段だということに気づきました。気持ちをちゃんと出すことができて、私は怒りを怒りとして伝えられたことが喜ばしくもありました。


私はもともと怒ったり、泣いたりすることがよくあって、それに振り回されて具合が悪くなることもありました。それでいつからか怒りの感情から一歩引いて、なぜ怒りを感じているのかを観察してバランスをとる癖がついたんですけど、今回の旅を経て、許せないと感じた自分のために怒りたいって思えたんです。感情に水を差す必要はない。怒れるときに、怒っときやって。それは私にとっては大きな変化でした。


実は明日、タトゥーを入れるんです。とあるイベントで一緒になった大好きなタトゥーアーティストの人が油性ペンで腕に描いてくれた絵がすごく気に入って。消えるのが嫌で自分で上からなぞっていたくらい(笑)。具体的なモチーフをタトゥーとして入れるのははじめてで、もしかしたらこれもまた私にとって大切な岐路になるのかもしれません。こころと身体をつなぎとめるタトゥーも、日々を応援してくれるタトゥーシールも、お守りのようなアクセサリーたちも、私の肌の上からずっと私の味方をしてくれているんだと信じています。

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interview Vol.03 Kaho Iwaya