人間がもつ五感のなかでも、知覚する情報の約8割を占めるとされる視覚情報。しかし、この説に「そんなものじゃありません!」と断じるのは、脳科学者の茂木健一郎さんだ。
「視覚から得られる情報はもっと膨大で、脳の神経回路の約7割が視覚からの情報処理に使用されるほどです。目はそんなリッチな情報の入り口となる、とても重要な器官なのです」
重要な器官だからこそ、酷使による疲労には注意したい。パソコンやスマホといったデジタル機器を多用する現代人ならばなおさらだ。
「私が以前から推奨する、気づきやひらめきのアハ体験や、偶然の幸福をいうセレンディピティも、脳がリラックスした状態で訪れます。脳が疲労していると、そうした情報が入ってきても、気づくことができないのです」
より多くのアハ体験、そしてセレンディピティに巡り合うために必要なのが「脳の緊張を解放し、リラックス状態にすること」であるという。
「脳がリラックスした状態を『フロー状態』といいますが、脳科学の研究により、その時が最も処理能力が向上することがわかっています。仕事の際にはフロー状態にしておきたい。そのためには、膨大な情報の入り口である目を休ませることが重要です」
茂木さん自身「可能であれば6時間は睡眠を取りたい」というように、脳を疲労から回復させ、リラックス状態にするためには、目からの情報を遮断する睡眠が、最も効果的だ。
しかし、起きている時でも脳をリラックスさせることは可能であるという。茂木さんが続ける。
「リラックスとは、脳を仕事や学習から一時的に切り離し“句読点”を打つこと。僕の場合、それはランニングであり、道中のバタフライウォッチング。
蝶の観察は子どもの頃からの趣味で、なによりの句読点となっています」
そんな茂木さんは、情報の入り口である目の疲れの際には、学生時代から目薬を使用している。