薄毛(特に男性型脱毛症)の原因、予防法、対処法について解説

<知っておきたい>薄毛の正しい知識 薄毛(特に男性型脱毛症)の原因、予防法、対処法について解説

「日本人成人男性における毛髪(男性型脱毛)に関する意識調査」によると、20代~60代の男性の約3割が認識しているという薄毛。近年研究が進んで原因が明らかになりつつあります。原因は何なのか、予防法はあるのか、どんな対処法があるのか、女性の薄毛との関係なども含め、専門医の監修のもと、詳しく解説します。薄毛に悩む方からよく寄せられる質問にもお答えします。

男性に起こる薄毛について

男性に起こる薄毛について

男性に起こる薄毛のメカニズムや特徴、抜け毛との違いについて解説します。薄毛になりやすい部位も存在しますので、あわせてみていきましょう。

薄毛とは

髪の毛(毛)を作り出す皮膚の小器官である毛包は、成長期、退行期、休止期というサイクル(毛周期)を繰り返しています。毛包に男性ホルモンが作用すると、毛を作り出している毛包の根元の部分で髪の毛の発育を抑えるシグナルなどが亢進し、毛周期の中の成長期の期間を短くするとともに、休止期が相対的に長くなります。すると、毛包は十分に成長せずに毛周期を繰り返すことになり、毛包が小型化(ミニチュア化)します。その結果として、作り出される毛の1本1本が細くなった(軟毛化した)状態が、男性型脱毛症(AGA)です。一般的に男性の薄毛とはこの男性型脱毛症(AGA)を指します。

薄毛になりやすい部位

前額部(ぜんがくぶ)(おでこ)や頭頂部などの毛根が男性ホルモンに影響されやすく、前額部が薄毛になるM型、頭頂部が薄毛になるO型などが代表的なAGAのパターンとして知られています。

抜け毛と薄毛の違い

通常の毛周期の状態では、1日で50~100本の髪の毛が抜けるといわれています。これは正常の生理現象ですので心配する必要はありません。ただ、短くて細い抜け毛が明らかに自覚できるほど多くなってきたら薄毛の兆候である可能性があります。

薄毛を認識している男性の割合

2003年6~8月に、日本全国に居住する20歳から69歳までの日本人男性を対象に行われた調査によると、薄毛・抜け毛を認識していると回答した人は、6509人の回答者のうち1886人であり、全体の30%を占めました。さらにそのうちの約60%が現在あるいは将来の毛髪の状態を懸念している(「非常に気にしている」「気にしている」と答えた人の合計)と回答しています。この調査結果を日本の将来推計人口(2003年中位推計)に当てはめると、薄毛を認識している成人男性は全国で1,260万人に上り、薄毛に対して何らかの対処を現在も行っている男性は500万人に上ると推定されています。

※板見智『日本人成人男性における毛髪(男性型脱毛)に関する意識調査』日本医事新報(4209),27-29,2004-12-25日本医事新報社

男性が薄毛になる仕組み・主な原因

男性が薄毛になる仕組み・主な原因

毛周期についてもう少し詳しく説明しましょう。

毛周期のほとんどは成長期です。成長期では毛母(もうぼ)細胞という、毛根にある細胞が分裂を繰り返し、髪が伸びていきます。そして成長期(2~6年)が終わると、退行期(2~3週間)となり、ここでは毛母細胞を含んだ毛根の膨らんだ部分(毛球)が小さく縮小し、毛包が皮膚の方向に縮み、休止期(3~4か月)となります。休止期では毛球部が完全に退縮し末端が棍棒のようなかたちをした毛が毛包にのこります。毛包の奥で新たに作られ始めた新しい髪の毛に“押し出される”ようにして古い毛が抜け落ちます。新たに成長期が始まり、新しい毛は抜け落ちた毛と同じ毛穴で伸長し始めます。こうした毛包の再生のサイクルが毛周期です※1

  • 毛の構造(図)

    毛の構造
  • 正常の毛周期と、AGAの毛周期(図)

    正常の毛周期と、AGAの毛周期

また、AGAには男性ホルモンと共に、遺伝的素因も薄毛にかかわっていることが分かってきました。つまり、家系に薄毛の人がいれば、AGAになる可能性が比較的高くなるということです※2
男性では30~40代で発症することが多く、中には10代後半で発症することもあり得ます。男性の全年齢でみると1/3の人にAGAの症状がみられます※3

出典
※1:大山 学[編集企画]、齊藤 典充[著]『Derma. No.252(2017年1月号)』P2 全日本病院出版社
※2:板見 智[監修]、毛髪医療特別取材班[著]『毛髪医療最前線』P7-15朝日新聞出版
※3:大山 学[編集企画]、齊藤 典充[著]『Derma. No.252(2017年1月号)』P5 全日本病院出版社

薄毛の主な原因

ここまで説明してきたように、AGAは男性ホルモンが主たる原因となっていることがわかっています。
俗に言われているような、帽子をかぶると薄毛になる、毛穴が詰まると薄毛になるといった説には科学的根拠はありません。他にも、煙草や睡眠不足と薄毛の関係もはっきりしていません。
ただ、毛を作っている毛母細胞は全身の細胞の中でも分裂や増殖が盛んなので、栄養素などを多く必要とします。無理なダイエットによって髪の毛が抜けたりすることがあるように、栄養が不足すると毛には良くありません。栄養のバランスのいい食事をとることは、良い毛の状態を維持するためにも大切だと言えるでしょう。

毛包の幹細胞と薄毛

AGAとしばしば合併する加齢性の薄毛では、毛母細胞に細胞を送る役目をしている毛のもととなる「毛包幹細胞」が失われることが分かってきました。それだけでなく、抜く、強く引っ張るなどのストレスを繰り返すことでも毛包幹細胞が減る可能性があります。
例えば、毛髪を抜くのがやめられなくなる「抜毛症(ばつもうしょう)」という病気では、髪を大量に抜くことで毛周期を早めていると考えられ、長期間その状態が続くと生えてくる髪がとても細くなっていきます。また、日常的に髪の毛をきつく結い上げるバレエダンサーや日本髪を結う舞妓などでは、生え際が薄毛となり、ついには髪が生えなくなることがあります(牽引性(けんいんせい)脱毛症)。この理由の一つとして、強く引っ張られることが負担となって毛包幹細胞がダメージを受けることが考えられます。

男性によく見られる薄毛の種類・症状

男性によく見られる薄毛の種類・症状

AGAや加齢性の脱毛以外でも、薄毛の症状があらわれることがあります。どんなケースなのかみていきましょう。

症状
  • 甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症、膠原病による脱毛

    内分泌・代謝異常や膠原病などの病気が原因で、薄毛や脱毛の症状を呈することがあります。頭頂部だけでなく頭部全体に生じることが多いのが特徴です。正しく診断し、治療を開始することで、症状の回復が期待できます。

  • 抗がん剤による脱毛

    がん治療で使用する抗がん剤の代表的な副作用が脱毛です。抗がん剤治療をした人すべてに脱毛が起こるというわけではなく、その度合いは使用する薬の種類や量、投与スケジュールによって異なります。脱毛が生じる場合は、抗がん剤を投与して1~3週間後から髪が抜け始めることが多いとされています。髪の毛以外に、眉毛やまつ毛、腋毛、陰毛など、他の体毛にも脱毛の症状が出ます。抗がん剤治療が終わって3~6カ月後にはまた髪が生えてくることが多いとされていますが、新たに生えてきた髪は髪質や色が元々生えていた髪と異なることがあります。抗がん剤による睫毛の貧毛にはプロスタグランジンの外用剤が有効なことがあります。

  • 円形脱毛症

    本来は病原体などから体を守ってくれる免疫機能に異常をきたし、自分の体の一部をある種の“異物”とみなしてしまう自己免疫応答によって、頭髪に円形の脱毛が生じるのが円形脱毛症です。頭髪だけでなくほかの体毛でも発生することがあり、脱毛箇所についても一つだったり複数だったり頭部全体に及んだりと様々です。治療方法は年齢、脱毛の広さ、発症してから経過した時間などで異なります。

  • その他

    上記の疾患以外にも、薄毛・脱毛という症状をきたす疾患はたくさんあります。脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚炎、帯状疱疹や梅毒などの感染症、水疱症、その他に遺伝性の皮膚疾患などでも、薄毛や脱毛がみられることがあります。また、かゆみを伴う皮膚疾患で患部をかきむしることなど、物理的な要因で薄毛・脱毛になることもあります。

上記のように、薄毛をきたす原因は様々です。薄毛・抜け毛の症状をきたした場合は、医療機関を受診し、適切な治療法を知ることが大切です。

薄毛の予防法

薄毛の予防法

先に書いたように、AGAの主たる原因は遺伝的素因と男性ホルモンです。そのため、予防となる特定の食品や生活習慣はありません。毛髪は体の一部ですから、広く体に良い生活習慣が毛髪にも良い影響があると考えられます。

薄毛の対処法

薄毛の対処法

細くて短い抜け毛が目立つなど、薄毛の兆候を自覚するようになったとき、どんな対処をすればいいのでしょうか。AGAの研究は進んでおり、有効な治療薬が開発されています。以下にご紹介します。

対策
  • 内服薬

    薄毛の原因となる男性ホルモンは、血液を巡って毛根に入り、酵素の働きによってより強い男性ホルモン(DHT)に変化します。これが、髪の毛の発育を抑制する方向に働くことでAGAの原因になるということが分かっています。この酵素の働きをおさえる薬として、フィナステリド・デュタステリドという内服薬があります。フィナステリド・デュタステリドを服用することによって、薄毛の進行が遅くなったり、見た目の髪の毛が増えたりすることが期待されます。
    ただし、これらの薬には、肝機能障害や精力減退、精子量の減少などといった副作用のリスクがないわけではありません。医師による診察を受けながら内服する必要があります。また、海外の医薬品や並行輸入品など正式に国内認可されていない薬は、安全性の面からおすすめはできません。

  • 外用薬

    ミノキシジルが配合されている外用薬が有用とされています。この薬は元々血管拡張剤でしたが、服用している人が副作用で体毛が濃くなったことから育毛剤として使われるようになりました。医療用に加え、薬剤師の在籍する薬局でも買える市販薬としても販売されています。

  • 自毛植毛

    薬剤の使用で効果がみられない場合、後頭部などの髪の毛が残っている部分から頭頂部や前額部などに毛包ごと移植する方法があります。移植がうまくいけば、健康なヘアサイクルの毛が生えてくるようになります。ただし外科手術ですので、リスクはあります。執刀医に十分な経験と実績があることが求められます。

  • LED、低出力レーザー

    LEDや赤色の低出力レーザーにも育毛作用があることが分かっています。適切な機器を使用すれば副作用が比較的少ないため、他の育毛治療と併用することも可能です。

女性の薄毛について

女性の薄毛について

男性ほどではないとはいえ、女性の中にも薄毛で悩んでいる方が少なくありません。女性にも男性ホルモンは存在しますので、女性でもAGAになりえると考えられます。しかし、女性では男性と異なり、頭頂部に目立つパターンをとる薄毛を示します。薄毛は男性ほど明確に男性ホルモンとの関連性が見出せない場合が多く、男性のAGAとは異なった状態と捉えられており、最近では女性型脱毛症として別に扱われるようになりました。男性のAGAで紹介した内服薬はどちらも女性には禁忌(服用してはならない)ですので、ミノキシジルが配合された外用薬での治療が中心になります。ミノキシジル配合の外用薬というと男性用のイメージですが、女性用もあります。ただし、男性用はミノキシジルが5%配合された市販薬があるのに対し、女性用には1%配合の外用薬が市販されています。

他にも女性の場合は、加齢などに伴うびまん性脱毛症(頭髪が全体的に薄くなる)や休止期脱毛症(毛周期の休止期の割合が増える)の場合があったり、これらと上で説明した女性型脱毛症の症状が重なっていたりと、一口に薄毛といっても男性よりも成り立ちが複雑です。
原因についても、ホルモンとの関連性だけでなく、貧血やダイエットなどの栄養障害や、女性ホルモンの異常や甲状腺の病気、膠原病など女性に多い病気でも脱毛の症状が現れます。複数の原因が関与していることも、原因がまったく分からないこともあるのです。

シャンプーのときなどに普段より明らかに抜ける量が多いなと感じたら、病院(皮膚科)を受診してみてください。

薄毛や抜け毛の改善については、状態によっては方法がないわけではありません。特に女性の場合、極端な食事の摂り方によって毛の材料となるたんぱく質が不足しがちになる可能性があります。このような場合には、たんぱく質をバランス良く摂取することで抜け毛が改善できる可能性があります。また、毛髪が抜ける原因となる湿疹やかぶれを防ぐ意味でも、日頃から頭皮のケアはしておくことをおすすめします。日常的に髪をきつく結っていると、上で紹介した牽引性(けんいんせい)脱毛症になることがあるので、避けた方がよいでしょう。

薄毛でよくあるお悩み解説(Q&A)

薄毛でよくあるお悩み解説(Q&A)

  • 薄毛の症状に気づいたら、すぐにクリニックを受診した方がよいでしょうか?

    脱毛の程度や本人の治療への意向にもよりますが、何となく気になる、ボリュームが気になるという程度であれば、まずは市販薬、特にミノキシジル外用薬を利用して治療を始めてみてください。使い始めて頭皮にかゆみや刺激感がないことを確認し、用法容量を守って正しく使うことが大切です。
    市販薬で様子をみても、症状が進行するようなら皮膚科の受診をおすすめします。病院では脱毛の原因となる他の病気を調べたり、内服薬を処方してもらったりと、より踏み込んだ治療を行うことができます。

    また、症状の進行具合によっては、より専門的な医療機関を紹介してもらうこともできます。

  • 薄毛予防のための「髪の洗い方」「乾かし方」「スタイリングの注意点」を教えてください。

    まずは頭皮を清潔に保つことが大切です。髪を洗うことは、湿疹を防ぐことにも繋がります。自分の生活環境や仕事の環境に応じて、適切な頻度での洗髪を行ってください。髪や頭皮を傷付けないように気を付けて、やさしく洗うことを心がけましょう。
    乾かし方としては、例えば手で髪や頭皮をゴシゴシこするなど、過剰な力を入れないようにすることが大切です。頭皮にあまりに強い物理的な外的刺激が加わると、毛に「節目」のようなものができ、脆くなる「結節性裂毛症」と呼ばれるような状態になる可能性もありますので、注意しましょう。
    また毎日、きつく髪を結ぶことは、牽引性脱毛につながりますのでおすすめできません。
    基本的に髪を傷めるような習慣は、薄毛にも悪影響と考えるとよいでしょう。

  • 抜け毛が起こりやすい季節はありますか?

    イギリスの専門誌によると、2004年~2016年に実施した「脱毛の季節性」に関する調査から、夏と秋が最も脱毛量が多くなるということが分かっています。先述した薄毛のヘアサイクルの休止期は、夏から秋の移行期間に起こりやすいという研究データもあることから、この時期は注意が必要でしょう。

    ※:British Journal of Dermatology (2018) 178, p978-979

  • 薄毛によいとされる食事はありますか?

    俗に昆布やひじきなどが髪によいといわれることもありますが、きちんとした医学的根拠はありません。これらの海藻類は緑色~黒色の細長い形状をしているため、その外観から連想されたのでしょう。何か特定の食べ物が毛の成長に影響を与えるという話には、根拠がないことが多いので注意しましょう。
    逆に、急激なダイエット、極端な偏食などによりたんぱく質や亜鉛が欠乏することで、毛の特に成長期が障害され、脱毛に繋がることがあります。重ねていいますが、栄養バランスのとれた食事や規則正しい生活は、髪のためにも大切です。

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大山 学先生
監修:杏林大学医学部 皮膚科学教室 教授 大山 学先生
医学博士。慶應義塾大学卒業後、2002年に渡米し、国立衛生研究所、国立がん研究所の皮膚科訪問研究員に。2014年慶應義塾大学皮膚科学教室で准教授となり、15年より現職。専門分野は、脱毛症、自己免疫性疾患、再生医学、幹細胞生物学。

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