出産前後にみられる皮膚トラブル(妊娠線、かゆみ、産後の抜け毛)の原因・症状・対処法
爪にひび割れやでこぼこなどのトラブルがあると、見た目の印象に影響を与えてしまうものです。また、「健康のバロメーター」ともいわれる爪の状態は、ときに重大な病気のサインとなることもあります。爪に起こりやすい症状の原因や対処法について、皮膚科医監修のもと解説します。
爪の構造
爪は、指先の保護や指先の微妙な感覚などにおいて重要な役割を担う上皮組織です。「爪甲(そうこう)」「爪郭(そうかく)」「爪母(そうぼ)」「爪床(そうしょう)」から成り、さらに細分化された名称をもっています。私たちが通常「爪」と呼ぶ部分は爪甲にあたり、爪甲を取り囲む皮膚を爪郭といいます。爪甲は爪母から作られており、爪の根元にある「爪半月」も爪母の一部です。爪床は爪甲の裏側にある皮膚のことで、爪甲に密着しています。
爪に起こりやすい症状と主な原因
健康的な爪は全体的に薄いピンク色をしています。しかし、さまざまな原因により、爪が変形したり、色が変化したりします。爪に起こりやすい症状別に、その原因をみていきましょう。
-
爪が割れる(欠ける)
爪が横や縦に割れたり、欠けたりすることがあります。爪が縦に割れた状態を「爪甲縦裂症(そうこうじゅうれつしょう)」といい、爪の根元まで割れている場合と爪の先端のみ割れている場合があります。
爪は、水仕事による乾燥や除光液の使用などで爪の水分が失われたり、妊娠や授乳、加齢によって爪の主成分であるタンパク質「ケラチン」が不足したりすると、もろくなって割れやすくなります。爪甲縦裂症の原因ははっきりわかっていませんが、甘皮とも呼ばれる「爪上皮(そうじょうひ)」の異常によって起こることがあります。爪甲縦裂症は、ステロイド含有外用薬を用いて治療しますが、改善しない場合は爪の根元に腫瘍がある可能性も考えられます。
-
爪に縦線(筋)が出る
一般的によくみられる症状です。爪甲縦条(そうこうじゅうじょう)とも呼ばれます。
加齢が原因となるため、20代では目立ちにくいことが多いですが、50代頃から増加し、症状が目立ちやすくなるでしょう。老化現象のひとつなのであまり心配する必要はありませんが、進行すると爪が縦に割れやすくなります。
-
爪に横線(筋)が出る
爪母になんらかの障害が起こって爪甲の成長が一時的に抑制され、横線が発生することがあります。横線の幅は障害が生じた期間を、横線の深さは障害の強さを示しています。
爪を噛む、外部から衝撃が加わるなどの外傷によって横線や横溝ができることもありますが、その場合は外傷を受けた爪のみに生じます。すべての爪に横線が1本出ることを「ボー線条」といい、発熱性疾患や感染症、糖尿病、薬剤の影響、出産、亜鉛欠乏症などが原因で起こります。
-
爪がでこぼこ
波を打つように、爪の表面に次々に横方向の溝ができている状態を、「波板状爪(洗濯板状爪)」といいます。健康な人にも起こりうる症状で、爪母を覆う皮膚をほかの指でおさえる癖がある人に多く、特に手の親指によくみられます。
また、先の尖ったものでつついたようなでこぼこができることもあり、そうした状態は「点状陥凹(てんじょうかんおう)」と呼ばれます。点状陥凹は、乾癬や円形脱毛症と関連して生じることもあります。
-
爪が薄い
低色素性貧血や甲状腺機能亢進、末梢循環障害、先天性角化異常症など、爪母になんらかの病気が影響して変化が生じ、爪が薄くなることがあります。
また、一部の爪甲が薄くなって縦に割れやすくなる扁平苔癬(へんぺいたいせん)やエリテマトーデス、凍瘡(しもやけ)などが爪母に影響を与えて爪が薄くなるケースもみられます。
-
爪が二枚に分かれる
いわゆる「二枚爪」のことで、医学的には「爪甲層状分裂症(そうこうそうじょうぶんれつしょう)」といいます。爪の先端のほうの表面が薄く層状にはがれます。
原因としては、爪の割れと同様に、爪の水分量の低下や栄養不足が関係します。水分が失われた爪の先に爪切りなどで大きな力が加わると、二枚爪を生じやすくなります。そのため、夏よりも、空気が乾燥する冬に多くみられます。また、鉄欠乏性貧血が原因で起こることもあります。
-
爪が濁る、白くなる
爪白癬(爪水虫)になると、爪の色が濁って分厚くなります。カビの一種である白癬菌に感染することで起こり、特に足の爪に多くみられます。
また、足の親指の爪が濁って分厚くなり、表面がでこぼこして弓型に曲がることもあります。そうした状態を、爪甲鉤彎症(そうこうこうわんしょう)といいます。外傷や合わない靴などが原因で発症します。
そのほか、手の爪では、指先から爪が浮き上がって白くみえる爪甲剥離症(そうこうはくりしょう)が生じることがあり、圧倒的に女性に多く発症します。爪甲剥離症は、接触皮膚炎やカンジダ感染、尋常性乾癬などが原因となります。このほか、尿に大量のタンパクが排出されるネフローゼ症候群、貧血、糖尿病などによっても生じますが、原因が不明なこともあります。
-
爪に白い斑点が出る
爪に点状の白斑ができる現象で、点状爪甲白斑(てんじょうそうこうはくはん)と呼ばれます。
外傷などで爪に成長異常が起こることで生じますが、過度に心配する必要はないでしょう。
-
爪が黄色になる
爪の栄養障害や感染症、柑皮症(かんぴしょう)、黄疸(おうだん)などにより爪が黄色くなることがあります。白~黄色っぽく濁った場合は爪白癬の可能性が、すべての爪が黄色っぽくなり、爪甲の成長が抑制されている場合は、黄色爪症候群(おうしょくそうしょうこうぐん)の可能性が考えられるでしょう。
黄色爪症候群になると、爪の変化だけでなく、下腿(ひざから足首)から足の甲にかけて浮腫が生じたり、胸水がたまったりします。
-
爪が緑色になる
細菌の一種である緑膿菌に感染すると、爪が緑色に変化します。湿度の高い環境を好む細菌であり、爪甲剥離症を生じている場合は、爪甲の下に入って繁殖することがあります。また、スカルプチュアネイルやジェルネイルなどの付け爪により、爪甲とのあいだに隙間が生じて湿度が高くなることでも、緑膿菌に感染しやすくなるでしょう。
爪に起こりやすい症状(爪トラブル)の
対処法・予防法
爪のトラブルを防ぐためには、原因に合わせた対処法が欠かせません。次のようなことを意識しましょう。
-
原因となる病気を治療する
爪の病気によって症状が出ている場合は、皮膚科を受診して治療しましょう。感染症や糖尿病など全身的な病気が原因となっている場合は、それぞれの病気を扱う医療機関で治療を受けてください。
-
丈夫な爪を育てる
すでにもろくなった爪を丈夫にすることはできませんが、これから生えてくる爪の質を改善することは可能です。食生活では、栄養バランスのとれた食事を基本としながら、爪のもととなるタンパク質やビタミンA、B、Dの摂取を意識しましょう。
また、健やかな爪を育てるうえでは、食事とあわせて質のよい睡眠やストレスの緩和、規則正しい生活も大切なポイントになります。
-
爪の保湿ケアを習慣づける
乾燥によるトラブルが起きている爪には、保湿ケアが欠かせません。特に手の爪は水仕事などで乾燥しやすいため、爪用の保湿クリームでこまめにうるおいを与えましょう。爪用の補修成分が配合されたタイプや、爪の保護・コーティング機能をもつタイプのクリームを使用するのもよい方法です。
-
爪の切り方に注意する
切るときに強い力が加わると、爪がダメージを受けやすくなります。爪を切るのは、入浴後など爪が柔らかくなっているときがおすすめです。左右のバランスをみながら少しずつ切りはじめ、形を整えていきましょう。最後にやすりをかけておくと、見た目がきれいになるだけでなく、爪に物が引っ掛かるのを防げます。手の爪は深爪に注意しながら、指先の肉に合わせて丸く整えましょう。
爪に見られる症状で
気になるお悩み(Q&A)
最後に、爪にみられる症状について、気になる疑問やお悩みにお答えします。
-
爪半月とは何ですか?健康状態と関係するのでしょうか?
爪の根元にある半月状の白い部分で、まだ完全に角化されていない生まれたての爪です。水分を含んでいるため白くなります。手作業などで爪上皮(甘皮)がはがれると、その下にある爪半月が露出して大きくみえることがあります。また、爪の成長が早いと爪半月は大きくなります。「爪半月が大きければ健康」などといわれることもありますが、医学的根拠はありません。
-
ネイルポリッシュ、ジェルネイルは爪にどんな影響があるのでしょうか?
ネイルポリッシュよりも、除去するときに使用する除光液のほうが爪にダメージを与えます。除去した後は、すぐに爪用のクリームで保湿ケアしましょう。
ジェルネイルは、グラインダーと呼ばれる機器で削って除去することが多く、回数を重ねるにつれて爪が薄くなることがあります。また、緑膿菌に感染して爪が緑に変色した場合は治療が必要です。皮膚科を受診してください。
-
手と足で爪に起こる症状や原因、対処法は違うのでしょうか?
指先の皮膚を守る手と足の爪は、それぞれ異なる役割をもっています。手の爪は細かい作業や物をつかむ動きをサポートしますし、足の爪には体を支え、歩行を助けるはたらきがあります。
爪白癬(爪水虫)など、手と足のどちらの爪にも起こる病気もありますが、手は足と比べて洗う機会が多いため、原因となる白癬菌が定着しにくいという違いがあります。また、病気のサインが爪に出ている場合は、手の爪のほうが目につきやすいでしょう。
一方で、巻き爪の多くは足にみられます。爪は本来丸くなる性質をもっており、歩行などで適度な力が加わることで平たい状態を保っています。そのため、合わない靴を履く、内またで歩く、外反母趾がある、スキーのような指の側面に負荷が加わるスポーツをするなど、足の指にかかる力がアンバランスになると巻き爪が起こりやすくなります。逆に、全く歩かない状態が続くことでも生じます。また、妊娠時に、体重増加や運動不足、歩き方の変化、爪切りが困難などの理由で巻き爪になることもあります。
このように、手と足では役割や環境が異なるため、現れる症状や対処法も異なります。
-
受診すべき症状の目安を教えてください。
爪に強い痛みがある、爪の色が変わる、爪が反り返るなどの異常が生じ、症状が続くようであれば、病気の可能性があるため皮膚科を受診しましょう。まれに、爪にメラノーマ(悪性黒色腫)が生じることもあるので、縦線の幅が広くなったり色が濃くなったりしている場合はすぐに受診してください。
監修:秋葉原スキンクリニック院長 堀内 祐紀先生
東京女子医科大学医学部医学科卒業後、都内皮膚科・美容クリニックを経て、2007年に秋葉原スキンクリニックを開院。日本皮膚科学会認定専門医、日本医学脱毛学会理事、Aケア協会アドバイザー。日本皮膚科学会、日本美容皮膚科学会、日本レーザー医学会、日本抗加齢医学会などに所属。