「痔(じ)」の原因・症状について解説

<知っておきたい>「痔(じ)」の正しい知識(1)「痔(じ)」の原因・症状について解説

お尻のトラブルの代表とも言える、痔(じ)。「痛い、血が出る」などというイメージを持っている方は多いと思いますが、痔にもいろいろな種類があり、それによって生じる症状も変わってくることも知っていますか?また、痔のような症状が出ていても、他の病気にかかっている場合があります。痔の原因・症状と、痔に似た症状が出る病気について、大腸肛門病専門医の監修のもと、くわしく解説します。

痔(じ)について

痔(じ)について

痔(じ)とは肛門と肛門周辺の疾患であり、痔核(いぼ痔)、痔瘻(じろう:穴痔)、裂肛(切れ痔)の3疾患の総称です。それぞれの疾患について説明していきます。

痔の種類と仕組み・症状

痔の種類と仕組み・症状

肛門の病気の中で痔核(いぼ痔)、痔瘻(穴痔)、裂肛(切れ痔)が占める割合は、痔核:約60%、痔瘻:約10%、裂肛:約15%で、この3つが肛門の病気の約85%を占めています。

痔核(いぼ痔)

肛門疾患の中で一番頻度が高いのが痔核です。診断や調査方法に一定の基準を作ることが難しいので、日本国内でどのくらいの人が痔核を発症しているのかという調査データはありません。米国では国内の病院データベースや大規模アンケート調査によって4.4%が痔核を発症していると推定されているという研究報告があり、ロンドンでは、肛門科医の診察で55%の患者に痔核の所見があるという調査報告があります。

男女のどちらが痔核になりやすいかということに差はなく、年齢層としては男女とも45~65歳が最も多いということが報告されています。
痔核はできる場所によって内痔核と外痔核に分けられます。直腸の歯状線(しじょうせん)という部分から体内側にできるのが内痔核、歯状線より体外側にできるのが外痔核です。さらに内痔核は肛門からの脱出の程度によりグレードI~IVに分類されます。(ゴリガー分類)

主な症状としては、肛門から血液や粘液が出る、痛み、腫れ、かゆみなどで、痔核の大きさや内痔核か外痔核かどうかなどの条件によって症状が一つだけあらわれたり、複数あらわれたりと様々です。

出血は主に排便時にみられますが、運動時や歩行時にみられることもります。血の色は鮮やかな赤色であることが多いです。出血の量も、ほとばしるような量からトイレットペーパーや便に少し付着する程度まで様々ですが、出血は排便時だけに起こって排便後はすぐおさまり、排便後まで出血することはまれです。

  • 内痔核

    内痔核
  • 外痔核

    外痔核
  • 内痔核のグレード

    内痔核のグレード

痔瘻(穴痔)

痔瘻は、肛門と腸の境目にある肛門陰窩という場所から細菌が侵入して肛門腺が細菌感染を起こして発生します。炎症が広がって膿がたまっている段階のことを肛門周囲膿瘍といい、症状が進行して膿の通り道が管やしこりになったものを痔瘻といいます。
欧米では10万人に5.6~20.8人が発症するというデータがあります。男女比では男性の方が女性の約3~5倍発症しやすく、年齢では男女とも30~40歳代で多くみられます。
症状としては、肛門周囲膿瘍では肛門周囲で突然の痛みを伴う腫れ、赤み、発熱が起こり、痔瘻では持続的に膿が出たり、肛門周囲の腫れや痛みが生じたりします。

  • 肛門周囲膿瘍と痔瘻(穴痔)

    肛門周囲膿瘍と痔瘻(穴痔)

裂肛(切れ痔)

裂肛は肛門の皮膚が裂けた状態の総称です。裂肛は男性より女性の方が1.5倍多く、年齢では男女とも20~30歳代で多く発症します。
裂肛では排便時に痛みがみられることが特徴ですが、軽度の浅い裂肛だと、かゆみを強く訴えることもあります。裂肛を繰り返していると、肛門の筋肉が見えるほど傷が深くなる(潰瘍)こともあります。潰瘍には便などが溜まりやすく、それによって繰り返す炎症で激しい痛みを常時感じるようになります。

  • 裂肛(切れ痔)

    裂肛(切れ痔)
痔の主な原因

痔の主な原因

痔は大きく3つに分けられることを説明してきました。ここからは、痔を引き起こしやすい主な原因について解説していきます。

原因
  • 便秘

    裂肛の原因として、便秘が最も多く、64%が慢性的な便秘によるものという報告があります。

  • 下痢

    便秘だけでなく、下痢も痔の原因になります。裂肛の約5%は下痢が原因であるという報告があります。また、痔瘻の前段階である肛門周囲膿瘍も、下痢便などによる細菌感染で発症しやすくなります。

  • 排便習慣

    排便時にりきむ人、トイレに長時間座っている人は痔核になりやすいという報告があります。

  • 生活習慣

    重いものを扱う職業の人や、長時間座っている仕事の人に痔核が多い、ベジタリアンでない食習慣の人に痔核が多いという報告があります。

また、痔の原因となる便秘や下痢にならないために、長時間座りっぱなしの生活、冷えや疲れ、ストレスなどを避け、水分と食物繊維を積極的に取るようにして、便意は我慢せず、排便時にあまりりきみすぎずに短時間で済ませるように気をつけることが大切です。

悪化したときに見られる症状(病気)

悪化したときに見られる症状(病気)

痔が悪化するとどのような症状(病気)になるか、以下に紹介します。

症状
  • 痔核が悪化した場合

    内痔核が悪化すると痔核が肛門外に脱出してくるようになります。グレードIIだと自然に体内に戻りますが、グレードIIIでは指で押し込まないと戻らない状態、グレードIVでは指で押し込んでも戻らない状態になります。また、グレードIII、IVは出血も頻回に起きるようになります。

  • 痔瘻が悪化した場合

    痔瘻の前段階である肛門周囲膿瘍の治療は基本的に化膿している部分を切開して膿を出すというものですが、痔瘻になると治療の基本は手術になります。痔瘻の程度が進むと治りにくくなり治療に時間がかかったり、肛門が緩くなってしまう後遺症の可能性が高まったり、再発の可能性が高くなるものもあります。

  • 裂肛が悪化した場合

    裂肛を繰り返すと裂けた部分が深くなり、筋肉が見えるほど深くなる(潰瘍)場合があります。外科的な治療をせずに症状が軽くなることは難しく、痛みや出血といった症状の頻度が増します。また、潰瘍が治ってきても、その度に肛門が狭くなり、肛門狭窄(肛門が狭くなって便が出にくくなったり細い便しか出なくなったりする状態)の状態になると、裂肛が起きやすくなり、悪循環をたどるようになります。

痔と似ている病気(症状)

痔と似ている病気(症状)

痔だと思って病院で検査を行ったら別の病気だったというケースや、痔ではなく他の病気によって肛門周囲に痔のような症状があらわれるケースがあります。どんな病気があるのかみていきましょう。

  • 直腸ポリープ、直腸がん(大腸がん)

    肛門からの出血の原因が、痔ではなくポリープやがんの場合があります。痔と直腸腫瘍(ポリープやがん)の出血はとてもよく似ている(鮮血が出る)ため、大腸内視鏡などの精密検査が必要です。結腸がんの出血の場合は、鮮血ではなく赤褐色で、粘液が混じることもあります。良性のポリープの中には放置によってがんに変化するものもあり、定期的な大腸検査により、発見されたポリープは切除しておくことが大切で、がんの予防につながります。

    ※大腸=結腸+直腸
  • 潰瘍性大腸炎

    血液に粘液が混じったり(粘血便)、下痢・腹痛を伴ったりするときは、潰瘍性大腸炎という病気である場合があります。大腸内の粘膜がただれたり、深く傷ついたり(潰瘍)する、原因不明の病気です。

  • クローン病

    クローン病という病気も潰瘍性大腸炎と似た症状で、下痢や肛門からの出血がみられます。クローン病は口腔から肛門にいたるまで、消化管のどこにでも起こり得て、潰瘍性大腸炎との大きな違いは小腸に症状が強くみられる点です。腸内の粘膜に炎症ができたり、深く傷ついたり(潰瘍)する病気で、原因は不明です。

  • 憩室症

    憩室(けいしつ)とは、腸などの壁面にできるポケット状の凹みのことで、大腸憩室からの出血があると、血便や下血がみられます。また、憩室に便が溜まり、細菌による炎症が起きると、憩室炎といって腹痛の原因となります。

  • 虚血性大腸炎

    虚血性大腸炎でも、腹痛と血便がよくみられます。虚血性大腸炎は、大腸への血流が一時的に障害された結果、腹痛や嘔吐、血便などが発生する病気で、60代以上でよくみられます。また軟便や下痢、血が混じった下痢、微熱といった症状がみられ、血液だけが排せつされたりすることもあります。

  • 胃・十二指腸潰瘍

    胃・十二指腸潰瘍などで胃や十二指腸の粘膜に穴があき、出血が起きると、タールのように黒っぽく、臭い便が大量に出ます。

  • 尖圭コンジローマ

    ヒトパピローマウイルス6、11型などのウイルスに感染して起こる性感染症で、肛門周辺に米粒大のいぼが出現し、放置によって増殖するとカリフラワーのような状態になります。この病気の場合は男女とも生殖器周辺にも症状が出ることが多いです。

  • 梅毒

    梅毒も梅毒トレポネーマという菌が原因の性感染症です。感染初期に感染部(主に陰部、唇や口の中、肛門など)にしこりができることがあります。治療しないまま時間が経過すると、病原体が血液に乗って全身に運ばれ、手のひら、足の裏、体全体に赤い発疹が出ることがあります。この時期に適切な治療を行わないと、数年後に複数の臓器の障害につながる可能性があります。

  • スキンタグ(肛門皮垂)

    外痔核や裂肛などで一時的に肛門部が腫れ、その腫れが引いたあとに皮膚が伸びたまま残ってしまったものです。放置していても構いませんが、皮膚炎を起こしてかゆみや痛みを頻回に生じる場合は切除を行うこともあります。

  • カンジダ症

    カンジダという真菌(カビの一種)による感染症で、発疹が肛門周辺できると、皮がむけて白くまたは赤くなり、強いかゆみを生じることがあります。

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寺田 俊明先生
監修:寺田病院 院長 寺田俊明先生
東京医科大学卒業後、三井記念病院外科研修医を経て亀田総合病院消化器科にて内視鏡をはじめ多種にわたる検査を習得。東葛辻仲病院を経て、現在寺田病院理事長・院長。
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