投稿作品例
家族の話、友情にまつわる話、人生を大きく変えた話等、どのような内容でもかまいません。
あなたの人生の中で現実に起きた、忘れることのない瞳に残る記憶のエピソードをお送りください。

覚えてくれていた

投稿者名 : 山田 太郎

ちょうど3年前の春の日のことです。ある朝、二階で寝ていた私は甘い匂いで目を覚ましました。階段を下りてキッチンの扉を開けると、妻のエプロンをした娘がフライパンでフレンチトーストを焼いていました。「おはよう」と声をかけると、娘は「あ!おはよう、お父さん。もう起きたんだ」と慌てて食器棚から皿を出してコーヒーメーカーのスイッチを入れました。妻はその横で「お母さん、お箸並べて~!」「カップ出して~!」という娘の声に「はいはい」と言いながら少しうれしそうに従っていました。妙な違和感を感じながらも、朝の弱い娘が朝食を、しかも私の好物のフレンチトーストを作ってくれるなんて珍しいこともあるもんだと、朝から気分のいい一日でした。

会社に着いた私は、忙しく午前の業務をこなし、昼休みのチャイムと同時に鞄を開けて弁当箱を取り出しました。すると、中身は妻特製のちらし寿司。『おぉ!』思わず顔がほころぶ私。妻のちらし寿司は絶品で、家族みんなの大好物だったのです。その日の午後の業務はいつもよりスムーズにこなせたような気がします。

そして家路につくと、夕食のメニューはカレイの煮付けとポテトサラダと粕汁。どうやら、妻と娘が一緒に調理したようでした。その日は朝から晩まで、リクエストしたかのように大好物のオンパレード。それでも私は気づきませんでした。食器が片づけられた食卓に、ロウソクのついたホールケーキが運ばれてくるまでは。ケーキのプレートには『勤続25年*毎日ありがとう』の文字。私は、すっかり忘れていたのです。“家族が覚えてくれていた”それだけで会社での25年間が一気に報われたような気がしました。この一日の出来事は、今でも鮮明に私の目に焼き付いています。

水落 豊 Yutaka Mizuochi

1975年生まれ。
1997年電通テック入社、CMディレクターとして活動。
その後、電通クリエーティブXへ異動。

主な代表作品

映画 「偉大なる、しゅららぼん」
「犬とあなたの物語・いぬのえいが2 / あきら!」

ドラマ 東野圭吾ドラマシリーズ・笑「モテモテ・スプレー」

MV nano feat. MY FIRST STORY「SAVIOR OF SONG」
chay「Twinkle Days」
アンダーグラフ「明日は続くよどこまでも」

その他、CM演出多数

受賞作

2005 カンヌ広告祭 ファイナリスト
2005 ニューヨークフェスティバル ファイナリスト
第51回 2011 ACC CM フェスティバル ファイナリスト

多田 昌平 Shohei Tada

1975年生まれ。
2003年より、映像ディレクターとしてキャリアをスタート。手掛けた短編作品が国内外の様々な映画祭にて上映、数々の賞を受賞。

主な代表作品

映画 「煩頭(ぼんず)」
ショートショートフィルムフェスティバル ジャパン部門上映
ロッテルダム国際映画祭 スペクトラム部門上映

「トゥルボウ」
ショートショートフィルムフェスティバル ジャパン部門ベストアクター賞
SkipシティDシネマ映画祭 奨励賞
16th 水戸短編映像祭グランプリ
高雄国際映画祭(台湾)優秀賞 他

「なんで僕だけ」
札幌国際短編映画祭2014 ナショナル部門グランプリ
西東京映画祭グランプリ/西東京市議会議長賞(演技者賞)W受賞