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方言研究の見地から〔四国エリア〕

めいぼ

このエリアも中国や東海エリアと同様、かつて政治・経済の中心地であった京都生まれの「メ(目)+イボ」が語源の「めいぼ」が伝播してきた地域といえるでしょう。

徳島における「めいぼ」が圧倒的に多く使用されている点や愛媛における「めぼ」より「めいぼ」の方が多く使用されている点、又香川では愛媛と逆に「めいぼ」より「めぼ」の方が多く使用されている点については3県共に世代を問わず約50年前に国立国語研究所で行われた調査の結果と同様です。一方約50年前の調査と異なった結果を確認できるのが高知県の状況です。

つまりかつての調査では高知県の山間部を中心として「めいぼ」の使用が確認され、一方海岸部を中心に「めぼ」の使用が確認されました。それに対して今回の調査では「めいぼ」の使用は世代を問わず少数で、代わってかつての調査では報告のない「めぼう」が全世代で多数使用されていることを確認できます。

この語末を延ばす「めぼう」に似た語形を使用している地点としては愛知県の若年層における「めんぼう」の使用を確認できます。ここで愛知県と高知県という京都を中心とするほぼ地理的な同心円上の地点で、語末の長音化という共通の現象が確認された背景には、そこに至るまでの両地域共通のプロセスを想定できます。

この点を言い換えると、特に共に語末を延ばすに至った点について以下のような愛知県と高知県共通の地理的伝播と世代間の伝承プロセスを想定できます。

〔地理的伝播〕 〔世代間の伝承〕
「目+イボ」(語源)  ┬─ 「i」が前後の唇音に同化 「メン(綿)+ボウ(棒)」又は 「メ(目の)+ボウ(棒)」(新しい意味の発生)
└─ 「i」の脱落
meibo(京都) ┬─ membo(愛知) membou(愛知・若年層)
└─ mebo(高知海岸部中心) mebou(高知・全世代)

まず上図の地理的伝播過程においては愛知(東海エリアの解説を参照)と高知で違う過程が確認されます。しかし語源の「目+イボ」から離れ「目いぼ」の視覚的な症状に類似した「メン(綿)+ボウ(棒)」又は「メ(目の)+ボウ(棒)」という語を生み出し、その結果語末が延びることになったという世代間の伝承過程においては、愛知、高知間で共通したプロセスを想定できます。

また高知では全世代で新形の「めぼう」が多数使用されているという点については、高知ではこの50年位で伝統形の「めぼ」から語末の長い「めぼう」への変化がほぼ終わってしまったといえそうです。これに対して愛知県では世代が若くなるにつれ、新形の語末が長い「めんぼう」の使用が増えているので、今正に伝統形の「めんぼ」から「めんぼう」への変化が進行している最中だと考えられます。

めばちこ

徳島、香川という大阪に近い地域を中心に少数の使用ながら全年層で「めばちこ」の使用が確認されます。約50年前の調査では四国においては、「めばちこ」の使用がほぼ全く確認されていないので、今後も四国全域の若年層を中心に「めばちこ」の使用が増えていくことを予想できます(「めばちこ」における影響力の大きさの背景にある要因ついては近畿エリアの解説を参照ください)。

解説:三重大学教育学部 余 健 助教授

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